保育士の保育活動と健康
保育士の先生方の仕事は子どもたちの成長を支える重要な役割を果たしていますが、その一方で、体力的な負担も大きい職業の一つです。特に腰痛は保育士にとって大きな問題となっています。腰痛は国民病の1つでもあるため、同じ職場にこれらの症状で悩んでいる先生方はいませんか?
厚生労働省の2020年の調査によると、退職者の退職理由の24.1%は体調不良であり、2022年の東京都保育士実態調査報告でも保育士の退職理由で「健康上の理由(体力含む)」と答えた割合が20%を超えています。
また保育士を対象としたアンケート調査で、身体的苦痛として最も多かったのが「腰痛」という結果も出ています。
子どもの安全を見守る必要もある保育士が腰痛の問題を抱えていると、咄嗟の事態に対応できず安全配慮がなされない可能性も考えられます。また腰痛により急な休みが必要となることもありますが、限られた人数の中で急な休みを取ることはそう簡単ではないでしょう。
そこで今回は保育士の先生方に多い腰痛について、その原因と自分でも出来る腰痛予防と対策方法について解説し、少しでもお役に立てたら幸いです。
腰痛の原因
保育園や幼稚園で働く保育士の腰痛は「職業病」とも言えるほど、腰痛になりやすい要因がそろっています。保育士が腰痛になる主な原因には、次の3つが挙げられます。
- 子ども用の低い作業環境
- 抱っこすることが多い
- 筋力不足
1.子ども用の低い作業環境
保育士が仕事で腰痛になる原因の一番はその「環境」にあります。
保育園や幼稚園は大人のためのサイズに作られているわけではなく、子どもの大きさに合わせていろいろな物が作られています。
- 水道
- トイレ
- 机・椅子
- 遊具 など
もちろん職員のための設備もありますが、保育士の先生たちは環境や子どもの目線に合わせるために、前かがみになったりしゃがむ動作が多くなり、結果腰に負担をかけてしまいます。
特に低い水道での手洗いの補助や、狭いトイレ内での補助、おむつ交換・着替え時の補助の際に前かがみになることも多いので、腰を痛めやすくなります。
前かがみになると腰(椎間板)にかかる負担が、立っているときの「1.5倍」にもなり、さらにその姿勢で重たいものを抱えようとすると「2倍」以上の負担になるので、とても腰を痛めやすい環境で仕事をしているのです。
(出典)NACHEMSON A :THE LUMBAR SPAIN.AN ORTHOPAEDIC CHALLENGE.SPAIN 1:59-71,1976
2.抱っこすることが多い
小さなお子さんを担当している保育士の場合、子どもを抱っこする機会がとても多いため腰に負担がかかります。特に保育園にお勤めの保育士の場合は0歳~2歳までの小さなお子さんを担当されると抱っこする時間や回数も多くなります。
1歳未満の体重は9kg前後ですが、2歳になると12kg前後です。前の図でもお伝えしましたが、立ったまま前かがみで重たいものを持つと、通常の2.2倍以上の負荷が腰にかかりますから、腰痛になるのは想像に容易でしょう。
抱っこは抱えるだけでなく、降ろすことも必要になります。子どもを降ろすときは背筋の筋肉が伸びながら力を発揮します。この動作は筋肉にとても負担がかかるので腰痛になるのです。
また保育士は「椎間板ヘルニア」と呼ばれる病気にないやすいと言われていますが、こうした子どもを抱える動作を繰り返すことが原因と言えます。
椎間板ヘルニアとは?
椎間板ヘルニアは、背骨をつなぐクッションのようなものである椎間板が突出し、神経を圧迫することで発症します。
主な症状は、腰やお尻部分に痛みが生じるほか、太ももやふくらはぎまで痛みやしびれが広がったり、足に力が入らなくなったりすることもあります。
3.筋力不足
男性の保育士も増えてきていますが、厚生労働省によると2020年の保育士の男女比率は女性が「96%」となっており、いまだに女性の保育士の先生が圧倒的多数を占めています。
女性の保育士の場合、筋肉を作り出す作用のある男性ホルモン「テストステロン」の分泌量が少ないため、鍛えても筋肉がつきにくい体質になります。
また出産を経験した女性保育士の場合、臨月になるとお腹が大きくなると同時に腹筋が引き伸ばされるため、出産後に腹筋が弱くなります。
腰痛は腹筋と背筋の筋力のバランスがとても大切になりますので、腹筋が弱った状態で子ども抱えたり、前かがみの動作を繰り返すことは腰痛を引き起こす原因になるのです。
すぐできる腰痛対策
保育園や幼稚園にお勤めの保育士が腰痛になった際の対策には以下のような方法があります。
- 前屈みを避けて作業する
- ストレッチ・体操を行う
- 筋力をつける
- 定期的に体のメンテナンスをする
前かがみを避けて作業する
腰痛になりやすい動作が保育士の仕事には多いため、腰痛を引き起こす「前かがみ」の動作はできるだけ避け、膝を曲げてしゃがんでから作業するようにしましょう。
例えば以下のような方法で作業するようにしてみて下さい。
- 片方の膝を床について作業する
- 床に正座して作業する
- 前にかがみ時は片方の足を一歩引く
- 立って作業できる高さに環境を設定する
どうしても前かがみになる必要がある場合は、お尻の穴(肛門)を閉めて、お尻をやや突き出すようにして股関節から体を前に倒すと良いでしょう。
こうすることでお腹のインナーマッスルが働くため、腰に負担がかかりにくなりますから意識してみて下さい。
ストレッチ・体操を行う
保育の仕事で腰痛を感じたら、一日の終わりに軽いストレッチや体操を行うと、筋肉の緊張がほぐれて腰痛が緩和されます。
特にストレッチしてほしい場所は、お尻の筋肉と太もも裏の「ハムストリングス」と呼ばれる筋肉です。
※お尻の筋肉「大殿筋」
※太もも裏の筋肉「ハムストリングス」
これらの筋肉は腰痛に関係しやすいため、毎日ストレッチしてあげることをオススメします。
また腰痛の症状のある方の多くは体が丸くなり、体をねじる機会が少なくなっていますので、体操として体をねじる運動を行うと体の軸が整いやすくなるのでオススメです。
YouTubeの方では仕事中でもできる簡単な体操を動画でもご紹介しているので、ぜひ参考にストレッチや体操を行ってみてください。
【オフィスで簡単】かがむとつらい腰痛は3つの体操でケアしよう(宮崎の健康経営サポート)
【動画】丸まった姿勢は腰痛のもと|カラダを捻って軸を整えよう!
筋力をつける
腰痛は男女問わず多くの方が経験する国民病の1つです。女性の場合は特に筋力が男性よりもホルモンの関係でつきずらいため、意識して筋力をつける必要があります。
腹筋や背筋を鍛えることで腰への負担は軽減しますが、特に意識してトレーニングしてほしい筋肉は、カラダの奥にある「インナーマッスル」です。
天然のコルセットと呼ばれるくらい大切な筋肉がお腹周りにはありますので、こちらをしっかり鍛えるようにしてあげましょう。
こちらの記事では自宅で簡単に行えるトレーニング方法をご紹介していますので、ぜひ参考にしてみて下さい。
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定期的なメンテナンスを行う
どんなに気をつけて作業していても、腰痛になることもあります。それは普段の骨格のズレやカラダの使い方の癖が影響しているからです。
専門家に見てもらい定期的なカラダのメンテナンスを行うことも腰痛を予防するには大切になります。同じような腰痛の症状で悩んでいても、問題となる原因がそれぞれ異なることも少なくありません。
自分のカラダの状態を知るために、まずは1度専門家に見てもらい、自分に合ったセルフケアの方法を指導してもらうことが良いでしょう。
アフターリハでは宮崎県内で働く大人のカラダの健康をサポートしています。腰痛ケアについても指導していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
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まとめ
保育士の腰痛は、適切な知識と対策により予防することが可能ですから、日々のケアと予防策を実践するようにしましょう。
また腰痛になりにくい職場環境を整えることも、子どもたちの笑顔につながりますので、1度職場内の作業環境を見直してみてくださいね。
参考文献
- 2022年度東京都保育士実態調査結果/東京都福祉保健局
- 工藤 恭子ら:保育士の保育活動による身体的苦痛の実態調査
- 平元 奈津子:妊産婦に対するウィメンズヘルス理学療法.理学療法の臨床と研究 第27号 2018年
- 須永 康代:妊娠・出産期の理学療法.理学療法―臨床・研究・教育 26:11-15,2019