理学療法士が解説! なぜか不器用、なぜか疲れやすい。その背景にある「原始反射」のふしぎな関係。

「なんだかうちの子、椅子に座っていてもすぐにグニャっとなってしまう…」 「黒板の字を写すのが、ほかの子よりすごく時間がかかって苦手みたい…」 「どうしてこんなに落ち着きがないのかしら?」

 

そんな風に、子育てや保育の現場で、お子さんの姿を見て「どうしてかな?」と首をかしげたくなるような瞬間に、出会ったことはありませんか?

 

たくさんの子どもたちと接する中で、そうした「苦手さ」や「生きづらさ」の背景に、実は『原始反射』というものが関係しているケースに出会うことがあります。

 

この記事ではお子さんのお困りごとに関係する原始反射について、わかりやすく解説し、原始反射を統合する遊びまでご紹介していきます。

 

理論解説:発達の土台を作る「原始反射」とは?

困った顔のイラストを持つ子ども

原始反射とは、赤ちゃんが生まれつき持っている、意識しなくても起こる自動的な動きのことです。

 

例えば、口元に触れるとそちらを向いておっぱいを探す「探索反射」や、口に入ってきたものに吸いつく「吸啜(きゅうてつ)反射」は、赤ちゃんが栄養をとるために不可欠な反射です。

 

また急な音や光に驚いて「ビクッ!」と両手を広げ、しがみつくような動きをする「モロー反射」は、お母さんから落ちないようにするための、いわば“命綱”のような役割がありました。

 

これらは、脳がまだ未熟な赤ちゃんが、自分の意志で動く代わりにお世話をしてもらったり、危険から身を守ったりするための「生存戦略スイッチ」なのです。

 

 成長と共に「みられなくなる」

これらの原始反射は、脳が発達し、自分の意志で体をコントロールできるようになるにつれて、自然と出番がなくなり、目立たなくなっていきます。この現象を「統合(とうごう)」と呼びます。

 

目安として、生後6ヶ月〜1歳頃までに、多くの原始反射は統合されます。

 

原始反射が「残存」したら?

ただし、何らかの理由でこの「統合」がスムーズに進まず、学齢期になっても原始反射が強く残ってしまうことがあります。これを原始反射の「残存」といいます。

 

原始反射は、無意識(自動的)に出る強い動きです。

 

そのためこの反射が残っていると、例えば「椅子に座る」という場面で、本人はじっと座りたいのに、体の傾き(頭の傾き)に反応して、無意識に体が動こうとしてしまいます(緊張性迷路反射:TLR)。

 

また首を左右に向けるたびに、無意識に手足が突っ張ろうとする反射(非対称性緊張性頚反射:ATNR)が残っていると、黒板を見ながらノートに字を書く(=首を動かしながら手を使う)動作がとても難しくなります。

 

その他、下記に残存した際の困りごとを記載します、

  • モロー反射の残存 → 緊張しやすく、音や光に敏感で集中しにくい
  • 対称性緊張性頚反射(STNR)の残存 → 姿勢が悪く(猫背やふんぞり返り)、水泳や縄跳びが苦手
  • 非対称性緊張性頚反射(ATNR)の残存 → 字を書くのが苦手、球技が苦手
  • 緊張性迷路反射(TLR)の残存 → 姿勢が悪く、乗り物酔いしやすい、バランスが悪い

 

科学的にも示される「原始反射」と発達の関連

こうした原始反射の残存と発達の関連は、近年多くの研究で示されています。

 

たとえば、原始反射の残存がみられる子どもほど、運動能力のレベルが低い傾向にあることが研究で報告されています (Gieysztor et al., 2018)。

 

また読み書きに困難のある子どもたちに、ATNRなどの動きを模した体操を続けた結果、体操をしなかったグループに比べ、読み書きの能力が大きく改善したという報告もあります (McPhillips et al., 2000)。

 

子どもの障がい特性で多い、ADHDやASDとも関係性があることが研究で報告されています。

 

ADHD(注意欠如・多動症)の症状との関係では、ATNRの残存が密接に関連していること (Kaiser et al., 2023) や、原始反射を軽減するトレーニングによって運動機能や認知機能が向上したこと (Melillo et al., 2020) も示されています。

 

またASD(自閉スペクトラム症)においても、原始反射の残存と認知・運動機能との関連が指摘されています (Konicarova et al., 2022)。

 

これらの研究は、原始反射の統合を促すことが、子どもたちの「困りごと」を軽減する可能性を示唆しているといます。

 

家庭や園でできる「統合あそび」

これらの反射は、罰したり、無理やり直させたりするものではありません。

 

原始反射の統合に大切なのは、遊びの中で「反射的な動き」を脳から抑制をかけられるようにして、脳と体をしっかりつなぎ直してあげることです。

 

多くの場合、成長の過程でやり残してきた動きを、遊びの中でたくさん経験させてあげることで、自然と統合が促されていきます。

 

ここでは、特に困りごとと関連しやすい3つの反射について、簡単なチェックと遊びを紹介します。.

 

① ATNR(非対称性緊張性頚反射)の統合あそび

  • 困りごと:字が枠からはみ出す、黒板を写すのが遅い、自転車に乗るのが苦手

簡易チェック

四つ這いになり、顔だけを左右にゆっくり向けさせます。顔を向けた側と反対側の肘が曲がってしまう場合、ATNRが影響している可能性があります。

おすすめ遊び:「ワニ歩き」

  1. うつ伏せになり、手足(肘と膝)を床につけます。
  2. 顔を右に向けたら、右の手足(肘と膝)を同時に前に出します。
  3. 次に、顔を左に向けたら、左の手足(肘と膝)を同時に前に出します。
  4. これを繰り返し、ゆっくり前進します。

ココがポイント

顔の向きと、手足の動きを連動させることが大切です。

 

② STNR(対称性緊張性頚反射)の統合あそび

  • 困りごと:姿勢が悪い(猫背、ふんぞり返り)、椅子に座っていられない、縄跳びが苦手

簡易チェック

四つ這いになり、頭(首)をゆっくり上下させます。頭を上げると肘が曲がり、下げるとお尻が浮く(肘が伸びる)場合、STNRが影響している可能性があります。

おすすめ遊び:「ゆらゆらロッキング(四つ這い」

  1. しっかりとした四つ這い(肩の真下に手、股関節の真下に膝)の姿勢をとります。
  2. 背中をまっすぐにしたまま、体をゆっくりと前後に揺らします。(お尻をかかとに近づけたり、肩を手の真上より前に出したりする動き)
  3. 次に、左右にもゆっくり揺れます。

ココがポイント

頭の動きと手足の動きが「分離」され、体幹で姿勢を保つ練習になります。

 

③ TLR(緊張性迷路反射)の統合あそび

  • 困りごと:バランスが悪く転びやすい、乗り物酔いしやすい、姿勢がぐにゃぐにゃ

簡易チェック

仰向けに寝て、手足を伸ばし、頭だけをゆっくり持ち上げます。このとき、手足が一緒に曲がってきたり、体が丸まろうとしたりする場合、TLR(屈曲)が影響している可能性があります。

おすすめ遊び:「スーパーマン飛行」

  1. うつ伏せになります。
  2. 「スーパーマン!」の合図で、両手・両足・頭を同時に床から持ち上げ、背中を反らせます。
  3. その姿勢で5秒キープし、ゆっくり下ろします。

ココがポイント

重力に逆らって体を反らせる動き(抗重力伸展)が、TLR(伸展)の統合と体幹の強化につながります。

 

原始反射の統合には感覚系も関与しているので、こちらの記事もあわせてご覧ください。

参考落ち着きがないのはワガママじゃない?子どもの行動の謎を解く『感覚統合』入門ガイド

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まとめ

子どもたちの「落ち着きがない」「不器用」「集中できない」といった姿の背景には、脳と体がまだうまく連携できていないこと、特に原始反射の残存が影響している可能性があります。

 

大切なのは、その子の「困りごと」の背景にある発達の土台に目を向けることです。

 

今回ご紹介したような「統合あそび」は、特別な道具がなくても、日常のふれあいの中で楽しみながら取り組むことができます。

 

ぜひ、お子さんと一緒に体を動かしながら、発達の土台作りをサポートしてあげてください。

 

より詳しく知りたい方へ

この記事では、原始反射の基本的な考え方と、代表的な遊びを3つご紹介しました。

 

しかし、原始反射には他にも多くの種類があり(ガラント反射、バビンスキー反射など)、どのアプローチがその子に最適かは、丁寧な評価が必要です。

 

noteのメンバーシップ限定記事では、さらに一歩踏み込んで、

  • 全10種類!理学療法士が使う「原始反射チェックリスト&評価シート」
  • 反射別・目的別「感覚統合あそび」徹底解説レシピ集(10選以上)
  • 科学的根拠(エビデンス)の詳しい要約

など、ご家庭や支援現場ですぐに実践できる具体的なノウハウを、図解入りで詳しく解説しています。

 

「うちの子の困りごとの原因を、もっと深く知りたい」 「支援の引き出しを増やしたい」という方は、ぜひnoteの記事もご覧ください。

 

noteはこちら

 

参考文献

  1. Gieysztor EZ, Choińska AM, Paprocka-Borowicz M. Persistence of primitive reflexes and motor development in 4-6-year-old children. J Clin Med. 2018;7(1):14. (PMID: 29379547)
  2. McPhillips M, Hepper PG, Mulhern G. Effects of replicating primary-reflex movements on specific reading difficulties in children: a randomised, double-blind, controlled trial. Lancet. 2000;355(9203):537-541.
  3. Kaiser N, Valchovska S, Stoyanova K, et al. Connection between ADHD Symptoms in Children and the Asymmetrical Tonic Neck Primitive Reflex. Children (Basel). 2023;10(7):1199. (PMID: 37484683)
  4. Melillo R, Leisman G, Mualem R, et al. The Effects of a Hemisphere Specific Visual-Motor and Vestibular Rehabilitation Program on the Retention of Primitive Reflexes in Children and Adults With ADHD. Front Public Health. 2020;8:578036. (PMID: 33282806)
  5. Konicarova J, Bob P, Raboch J. Retained Primitive Reflexes and their Relation to Cognitive Functions and Motor Competence in Children with Autism Spectrum Disorder. Physiol Res. 2022;71(Suppl 2):S271-S279. (PMID: 35873782)

 

  • この記事を書いた人

田中 宏樹

After Reha代表の田中宏樹です。医療保険、介護保険分野のそれぞれで経験を積みながら、経営・マネジメントの勉強・情報発信も行っています。認定理学療法士(脳血管・運動器)/ ドイツ筋骨格医学会認定マニュアルセラピスト / PNFアドバンスコース(3B)修了 / FBL Klein-Vogelbach 1,2a+b修了 / 成人ボバースアプローチ基礎講習会修了 / 健康経営EXアドバイザー /企業経営アドバイザー/作業管理士

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