「背筋を伸ばしなさい!」「ちゃんと座って!」お子さんの食事中や勉強中に、そんな風に声をかけた経験はありませんか?
何度言っても姿勢がぐにゃぐにゃ、ふにゃふにゃ。椅子の背もたれに寄りかかって、ずり落ちそうになったり、机に突っ伏してしまったり。
「うちの子は体幹が弱いのかな?」「集中力がないだけ?」 そんな風に悩んでしまう保護者の方も少なくないかもしれません。
これまで何度も姿勢のことを質問されてきましたので、姿勢の悪さがいかに多くのご家庭や園での悩みの種になっているかを実感しています。
実は、良い姿勢を保つためには、私たちが意識して「シャキッとしなさい!」と命令を送る大脳だけでなく、私たちが意識していない脳の働き、特に「感覚」と「脳」の連携プレーが不可欠なのです。
この記事では、なぜ意識だけでは姿勢が良くならないのかを脳科学の視点からやさしく解説し、ご家庭や園で今日から試せる「姿勢が育つ遊び」をご紹介します。
「無意識の脳」が姿勢の土台を作っている
私たちが「姿勢を保つ」とき、脳の中では想像以上に複雑な処理が自動的に行われています。
その主役は、大脳新皮質とよばれる「意識的」な部分ではなく、もっと奥深くにある脳幹(のうかん)や小脳(しょうのう)といった「無意識」の領域が関与しています。
脳幹とは?
大脳と脊髄をつなぐ生命維持に重要な部分です。呼吸、心拍、血圧、意識、睡眠・覚醒、嚥下、姿勢などをコントロールしています。
小脳とは?
脳の後頭部の下方にある、「小さな脳」と呼ばれる部分です。主な役割は、運動をスムーズにしたり、バランスを保ったり、体の姿勢を維持することです。
これらは姿勢を自動(無意識)で制御するためのシステムになります。
私たちが歩いたり、何かを掴んだりするときに、いちいち「右足を出して、次に左腕を…」と考えなくても体がスムーズに動くのはこの機能のおかげです。
この自動制御システムを動かすために重要となる情報が、「感覚」です。特に大切なのが、次の3つの感覚です。
前庭感覚
「揺れ」や「傾き」「スピード」の感覚で。重力に対して頭や体をまっすぐに保つために働きます。
固有感覚
筋肉や関節が「今どれくらい曲がっているか」「どれくらいの力が入っているか」を感じる感覚で、自分の体の位置や動きを把握するのに役立ちます。
視覚
周囲の物体との相対的な位置関係を把握し、頭や身体の動きを視覚情報として提供します。
これらの感覚情報が脳幹や小脳に絶えず送られることで、脳は無意識のうちに筋肉の張りを調整し、バランスを取っているのです。
つまり姿勢が崩れやすい子は、この「感覚の入力」や「脳での情報処理」が少し苦手なだけなのかもしれません。
そんな状態で「背筋を伸ばして!」と言うのは、植物に水をあげずに成長しなさいと言っているのと変わりません。
【ここでのポイント】
良い姿勢とは、意識して頑張って作るものではなく、脳の中で無意識に姿勢をコントロールするシステムがスムーズに働くことで、保たれるものなのです。
姿勢を無意識に支えるための遊びのヒント
では、どうすればの姿勢をきれに保つことができるのでしょうか?
これは先ほどお伝えした感覚の中でも、とくに「固有受容覚」「前庭感覚」を意識した遊びをまずは取り入れることです。
①動物ものまね歩き
床の上でクマさん(四つ這い)やワニさん(腹ばい)になって、ゴールまで競争します。
四つ這いになってゆっくり歩いたり、両手をついてカエルのようにジャンプしたりと、普段使わない筋肉をたくさん動かすことで、固有感覚が刺激され、上手なバランスの取り方を覚えていきます。
- ねらい:
「固有感覚」をたっぷり入力し、体幹や手足で体を支える力を養います。 - ポイント:
手足の裏にしっかりと体重を乗せるのがコツ。コースにクッションなどの障害物を置くと、難易度
②タオルソリごっこ
毛布やバスタオルの上に子どもを乗せて、もう一人の子どもがその毛布の端を引っ張って進みます。
- ねらい:
抵抗のあるものを引っ張ることで、全身の筋肉を協調して使う力、特に体幹を安定させて手足に力を伝える能力を育てます。 - ポイント:
ハイハイの姿勢で引っ張ると、より体幹に効くので、姿勢を変えて引っ張るのも良いでしょう。
③バランスストーン渡り
クッションや座布団、丸めたバスタオルなどを床に点々と置き、「島から島へジャンプ!」といってその上を歩いて渡ります。
ねらい:
不安定な足場でバランスを取ることで、前庭感覚と固有受容覚を統合し、足裏からの情報をもとに姿勢を自動調整する能力を高めます。
ポイント:
高さの違う不安定な足場や、素材の違う足場を使うことでよりバランス能力が高まります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。 お子さんの姿勢が悪いのは、ただ筋力が弱いからでもないのかもしれません。
その背景には「姿勢をコントロールする脳」という、目には見えないけれどとても大切な体の仕組みが関係しています。
この記事を読んで「少し視点が変わったかも」 そう感じていただけたなら、とても嬉しいです。
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