運動会のかけっこで、いつも周りの子より遅れてしまう。 走り方がなんだかドタドタしていて、ぎこちない。 すぐに転んでしまう。
そんなお子さんの姿を見て、「もしかして運動神経が悪いのかな?」「どう練習させたらいいんだろう?」と悩んでいる保護者の方や、支援者の方も多いのではないでしょうか。
まず大前提として、「走るのが遅い=何らかの異常」ということでは必ずしもありません。子どもの成長・発達には個人差があります。
ただ走りが周りに比べて明らかに遅いと感じられる場合には、「なぜ」そうなっているかを整理し、支援のヒントを持つことが大切です。
たくさん走る経験が少ないという理由もありますが、 実は子どもの「走り方」には、単なる筋力やスピードだけでなく、これまで子供たちをみてきた経験から、多くの場合4つの「原因」に分けられます。
この記事では、なぜ走り方がぎこちなくなってしまうのか、その背景にある機能と、ご家庭や園で簡単に取り入れられる「走る土台」を作る遊びをご紹介します。
なぜ、スムーズに走れないの?
原因①:運動経験・遊びの量が少ない
幼児期・低学年では「走る」「跳ぶ」「動く」という基本な動きを繰り返すことで神経・筋・体幹・バランス系の発達が促されます。
運動量が少ないと、走るスピードを支える筋力・神経‐筋の協応(体が動きを素早く切り替える仕組み)・バランス制御が未成熟になりやすいのです。
例えば「前へ」「横へ」「速く変える」などの動きを練習する機会が少ないと、走り出しや加速時に遅れが出ることがあります。
また屋外遊び・自由に走り回る時間が少ないと、「走る=楽しむ・できる」という経験が乏しく、心理的に「走ることに自信がない」「他の子より遅い」を感じやすくなります。
原因②:運動スキルや空間・方向・タイミングなどの発達が不十分
走るという動作は単に「足を速く動かす」だけでなく、他にも以下のような要素が組み合わさっています。
- 「体幹の安定」
- 「腕の振り」
- 「脚の踏み出し‐蹴り返し」
- 「重心移動」
- 「視線・方向転換」など
これらは「基本運動スキル(Fundamental Movement Skills, FMS)」や「知覚‐運動スキル(perceptual‐motor skill)」と呼ばれます。
例えば方向転換、急に走り出す、障害物を避けるなどの動作では「目で観て→判断して→体を動かす」という流れが重要で、これが未熟だと「走る時、脚だけ頑張っても身体の使い方で損をする」ことがあります。
さらに神経系(脳・脊髄・末梢神経)が、走るための「速く切り替える・連動させる」働きを発達させていく段階にあります。
研究では思春期前の児童では「力を出す」より「効率よく動かす=協応」が成長の鍵という指摘もあります。
原因③:筋力・体力・体幹(胴体)の安定性が弱い
低学年・4~5歳の児童は、まだ“成人の走り”に近い脚の強さや耐久力(走り続けるための筋持久力)を持っていません。
体力・筋力・神経‐筋機能が低めだと、走り出しが遅かったり、途中でペースが落ちたりするのです。
また体幹(お腹・背中・骨盤あたり)の安定性が低いと、脚を前に出すときに体全体がぐらついたり、腕振りがバラバラだったりして“脚だけ一生懸命”でも走りのスピードが出にくくなります。
個人差として、体重がやや重めだったり、筋肉量が少なめだったりする場合も、脚の回転数・蹴り返し力・着地の安定が遅れやすいことがあります。
原因④:心理的・環境的な要因
走る機会が少ない、あるいは「自分だけ遅い」「うまく走れない」という経験が続くと、自信を失い “あまり走らない・控えめに走る”という行動になりがちです。
また、遊びの中で『速く走る』ことがあまり求められていなかったり、障害物が多く思い切り走れない環境だったりすると、走る能力の発達が促されにくくなります。
保育園や学級環境で「みんなで全力で走る遊び」が定期的にあるか、また安全に思い切り走れる場所・スペースがあるかも影響します。
こちらでは子どもの自己肯定感や自己効力感について詳しく解説していますので、合わせてご覧ください。
どんな遊びをしたらいいか?
保育園で使いやすい「遊び形式+走るスキル支援」を兼ねたアイデアを、年齢層(4~5歳、低学年)別にご紹介します。
4〜5歳児から
1. “スタート&ストップ鬼ごっこ”
【ねらい】
- 合図(指示)に対する「反応」の速さを養う。
- 走る(加速)と止まる(減速)の切り替え、さらに止まった状態での「バランス感覚」を楽しく身につける。
【やり方】
- 子どもたちは広い場所で自由に散らばる。
- 鬼(先生)が「GO!」と言ったら、子どもたちは走り出す。
- 鬼が「STOP!」と言ったら、子どもたちはその場でピタッと止まる。
- さらに鬼が「しゃがむ」「片足立ち」「(両手を)広げる」など、止まった状態で行う次の動作を指示し、子どもたちはそれに従う。
- 「GO!」と「STOP」+「追加動作」を繰り返す。
ポイント
長時間は行わず、短時間(例:10〜15秒走る+10〜15秒止まって動作)を数回繰り返す程度でOKです。集中力を切らさず、瞬発的な動きを養うことを重視します。
2. “カラフルボール・ラン”
【ねらい】
- 走りながら「色を探す(視覚・判断)」、「方向を変える(方向転換)」、「タッチして折り返す(減速・加速)」といった複数の動作を連動させる。
- 目と手(または足)の協応運動(目で見た情報に合わせて体を動かす力)を養う。
【やり方】
- 床に「赤」「青」「緑」など、数色の色付きマットやビニールテープで目印を配置します。
- 先生が「赤のマットをタッチしてからゴールへ!」など、目標となる色と次の行動を指示します。
- 子どもたちは指示された色のマットを探して走り、タッチ(または踏んで)から、指定されたゴールへ向かって走ります。
ポイント
指示の出し方を工夫することで難易度を変えられます(例:「赤、青の順番にタッチしてゴール」など)。走る動作に「認知(考える)」要素を加えることが目的です。
3. “ケンケン&ダーッシュ”
【ねらい】
- 「ケンケン(片足ジャンプ)」によって、脚力(地面を蹴る力)とリズム感を刺激する。
- 「ダッシュ」によって、スピード(全力疾走)を出す感覚を養う。
- 異なる2つの動き(ジャンプと走る)を切り替える調整力を遊びながら身につける。
【やり方】
- スタートラインと、途中の目印(例:5〜8m先)、ゴールラインを決めておきます。
- スタートから途中の目印までは「ケンケン」で進みます。
- 目印を通過したら、ゴールラインまで全力で「ダッシュ」します。
ポイント
タイムを計ったり順位をつけたりするよりも、「ケンケンが上手にできたね」「ダッシュが速かったね」と個々の動きを認め、「みんなで楽しむ」という遊びの雰囲気を大切にします。
小学生低学年(1〜3年生)向け
4. “ミニ障害物リレー”
【ねらい】
- 単に速く走るだけでなく、「ジグザグ(体のひねり・方向転換)」「越える(脚の動き・ジャンプ)」「くぐる(姿勢の変化)」といった多様な動きを経験する。
- 動きを切り替える(加速・減速・体勢変化)ことで、走るスピードだけでなく「動きの効率性(器用さ)」を上げる。
【やり方】
- コーン、ミニハードル、フラフープなどを配置してコースを作ります。
- 例:「(コーンを)ジグザグ走る」→「ミニハードルを越える」→「フラフープをくぐる」→「ゴールでダッシュして次の人にバトンタッチ」というリレー形式で行います。
ポイント
これは「構造化された(意図的に組まれた)運動プログラム」であり、走力向上に効果的です。チームで協力するリレー形式にすることで、競争心と協調性を同時に養えます。
5. “色+数字+ダッシュ”ゲーム
【ねらい】
- 「走る(運動)」に、「指示を聞く(知覚)」と「場所を判断する(認知)」という要素を組み合わせる。
- 「見て(聞いて)・考えて・走る」という一連の知覚‐運動スキルを鍛える。
【やり方】
- 色マットや数字カードなど、複数の目印を配置しておきます。
- 先生が「緑・5!」など、「色」と「数字」を組み合わせて指示を出します。
- 子どもたちは指示を聞き、指定された「緑のマット」へ走り、そこに置いてある「数字の5」をタッチして、スタート地点に戻ります。
ポイント
指示を聞き間違えない「集中力」と、瞬時に判断して体を動かす「敏捷性(びんしょうせい)」が求められます。
まとめ:走る自信は「遊び」から
子どもの「走るのが遅い」「ぎこちない」という悩みは、感覚の土台を整え、体幹を育てる遊びを通して改善できる可能性がたくさんあります。
運動神経が悪いと決めつけず、まずは「揺れる」「支える」「バランスをとる」といった多様な動きを、遊びの中でたっぷり経験させてあげてください。
体が上手に使えるようになると、走ることへの自信も生まれ、運動会が楽しみになるかもしれません。
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走り方がぎこちない原因や対策までは無料で読むことができますので、ぜひ覗いてみてください!