子どもの言葉の遅れと「体」の発達:専門家が解説する運動と言語のつながり

「うちの子、周りの子より言葉が遅いかも…」「話しかけても、なかなか言葉が出てこない」

 

我が子の成長は大きな喜びですが、発達のペースは一人ひとり違うため、保護者の方が不安を感じることも少なくありません。特に言葉の発達は多くのご家庭で関心の高いテーマです。

 

近年の研究では、子どもの言葉の発達が単に口の機能だけでなく、全身の「体の発達」を土台としていることが示唆されています。もし、お子さんの言葉の遅れに加えて、姿勢が崩れやすい、動きがぎこちないといった様子が見られる場合、その背景には運動発達が関係している可能性があります。

 

この記事では、先の記事で提示された科学的根拠をもとに、言葉の遅れと体の関係性について解説していきます。

 

言葉の発達の前に見られる「4つのサイン」

2人組の女の子

言葉が爆発的に増える前には、その土台となる重要な発達段階があります。これらは言語を獲得するための準備が整いつつあることを示すサインになります。

 

1. 言葉の理解が進んでいる

「お外行くよ」で玄関に向かうなど、状況を含めて大人の言葉を理解し、行動で示せることは重要なサインです。

 

これは言語の受容能力(聞く力)が育っている証拠であり、発話(話す力)の前に発達する基盤です。

 

2. 意図を持った発声が増えている

単なる喃語(なんご)だけでなく、「あー!」と指差ししながら注意を引こうとしたり、何かを要求するように声を出したりと、他者への働きかけを意図した発声が増えてきます。

 

声がコミュニケーションの道具になることを学び始めている段階です。

 

3. 模倣する力が育っている

大人の動きや表情、手遊びの振り付けを真似する力は、発声器官の動きを真似て言葉を発する能力につながると考えられています。

 

研究では、乳児期の手の動きの模倣能力が、その後の言語発達と関連することが示唆されています (Ogino et al., 2022)。体の動きの模倣が上手になるにつれて、複雑な口の動きのコントロールも可能になっていくと期待されます。

 

4. 人に働きかける行動が多い(共同注意)

おもちゃを見せに来たり、親の手を引いて何かを要求したりする行動は重要です。

 

特に、子どもが興味のあるものを見つけ、指差しなどで親の注意を惹き、その対象を共有しようとする「共同注意」は、言語発達の強力な予測因子であることが広く知られています (Brooks & Meltzoff, 2005) 。

 

この「伝えたい」という気持ちが、言葉を話すモチベーションの源泉となります。

 

言葉の遅れの背景にある可能性のある「体の機能」

 

言葉は、脳からの指令に基づき、呼吸器や調音器官が精緻に連携して生み出される高度な運動です。そのため体の土台が不安定だと、このプロセスに影響が出ることがあります。

 

1. 体幹の弱さと呼吸の不安定性

足を開いて座る親子

体幹(胴体)の筋肉の張りが弱いと、良い姿勢を保つのが難しくなります。安定した発声は、息を一定の強さで吐き続ける「呼気のコントロール」に支えられていますが、このコントロールは腹筋などの体幹の筋肉が重要な役割を担っています。

 

体幹が弱いと深い呼吸がしにくく、呼気が浅く不安定になるため、長く明瞭な文章を話すことが難しくなる場合があります。

 

運動発達と言語発達の関連を調査した研究では、乳児期の運動経験が、後の言語能力の基盤形成に貢献すると結論付けています 。

 

姿勢を保つことに多くのエネルギーを使っている子どもは、他者とのコミュニケーションや発話という複雑な活動に注意を向ける余裕が少なくなる可能性があるのです。

 

2. 原始反射の残存と調音の不器用さ

おしゃぶりをして寝る赤ちゃん

原始反射は赤ちゃんが生まれつき持つ無意識の反応で、成長とともに脳が発達するにつれて統合され、意図した動きに置き換わっていきます。

 

一部の専門家やセラピーの分野では、この原始反射が後々まで強く残存すると、スムーズな体の動きを妨げ、体の不器用さにつながる場合があると指摘されています。

 

特に口周辺の反射が過敏に残っていると、舌や唇の巧みな動きが阻害され、結果として発音の不明瞭さ(いわゆる滑舌の悪さ)の一因となる可能性があるという考え方があります (Goddard Blythe, S., 2012) 。

 

あくまで医学的因果関係というより、仮説的な解釈になりますが、原始反射の影響も考慮しておく必要があるのです。

 

3. 感覚処理の偏りによる影響

私たちの脳は、五感や、体の傾きを感じる「前庭覚」、体の動きを感じる「固有受容覚」といった様々な感覚を整理・統合しています。

 

この感覚処理の過程に偏り(過敏さや鈍感さ)があると、言語発達の前提となる「聞く」「注意を向ける」といった行動に影響が及ぶことがあります。

  • 聴覚過敏:周囲の様々な物音が大きく聞こえすぎると、人の話声に集中して耳を傾けることが困難になる。
  • 前庭覚・固有受容覚の問題:自分の体の状態を把握しにくいため、落ち着きなく動き回ったり、逆に体の動かし方が不器用になる。

 

感覚処理の問題を抱える子どもが、結果としてコミュニケーションに困難を示すケースがあることは臨床的に知られており、感覚系の土台を整えるアプローチの重要性が指摘されています (Lane, S. J., et al., 2010) 。

 

感覚と運動についてはこちらの記事で詳しく解説しています。

ロッククライミング
参考【カラダの不思議】感覚について知ろう!"感覚”と"運動”の密接な関係

私たちが日常生活を送る際は、ただ単に動作を行なっているのではなく感覚の情報をもとに運動しています。   感覚と運動は常に表裏一体の関係にあるのです。   今回はそんな感覚について、 ...

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体の機能と言葉の発達を促す関わり方

水遊びをする子供

大切なのは「言葉を教え込む」のではなく、発達の土台となる体を育てる遊びを通して、自然なコミュニケーションを引き出すことです。

関わり方

  • 全身を使った「感覚遊び」を存分に楽しむ
  • 子どもの「好き」な遊びからコミュニケーションを広げる
  • 大人の言葉や動きを「ゆっくり、はっきり」見せる
  • 言葉を先回りせず、子どもの発信を待つ

子どもの発達を育むには、遊びの中で工夫することが大切です。公園の遊具や追いかけっこ、動物の真似歩きなど全身を使った遊びで、体幹や感覚を楽しく刺激しましょう。

 

子どもが夢中になっている遊びに合わせて「ブーブー来たね」「赤いのちょうだい」と短い言葉を添えると、自然にコミュニケーションが広がります。話しかけるときは目線を合わせ、表情やジェスチャーを交えて「ゆっくり、はっきり」と伝えることが大切です。

 

また、子どもの発信を待ち、指差しや片言を受け止めて正しい言葉で返すことで「伝わった!」という体験が、話す意欲を育てます。

 

言葉の遅れや体の使い方が気になる場合、一人で抱え込まずに市町村の保健センター、子育て支援センター、かかりつけの小児科などに相談しましょう。言語聴覚士(ST)や作業療法士(OT)などの専門家が、お子さんの特性に合ったサポートを提案してくれます。

 

まとめ

子どもの言葉の発達は、口先だけでなく、安定した体幹、体を協調させて動かす能力、多様な感覚を処理する能力といった「体全体の機能」が土台となって育まれます。

 

この記事で紹介したように、運動と言語の関連性は多くの研究で示されています。ただし、原始反射や感覚処理の問題との直接的な因果関係については、まだ研究途上の部分や、専門家によって見解が分かれる点も含まれます。

 

何よりも大切なのは、日々の生活の中で、親子で楽しい時間を共有することです。お子さんの「好き」を通して、たくさん笑い合い、心を通わせる経験が、言葉の発達の何よりの栄養となります。焦らず、お子さん一人ひとりの成長のペースを信じて、その発達を温かく見守っていきましょう。

 

参考文献

  • Ogino, M., Kanakogi, Y., & Itakura, S. (2022). Action imitation and its relation to subsequent language development in 9-month-old infants. Infant Behavior and Development, 68, 101736.
  • Brooks, R., & Meltzoff, A. N. (2005). The development of gaze following and its relation to language. Developmental Science, 8(6), 535-543.
  • Iverson, J. M. (2010). Developing language in a developing body: the relationship between motor development and language development. Journal of Child Language, 37(2), 229–261.
  • Goddard Blythe, S. (2012). Assessing neuromotor readiness for learning: The INPP developmental screening test and school intervention programme. John Wiley & Sons.
  • Lane, S. J., Schaaf, R. C., & Dumont, R. L. (2010). Sensory processing dysfunction in children. In Handbook of pediatric neuropsychology (pp. 385-401). Springer, New York, NY.
  • この記事を書いた人

田中 宏樹

After Reha代表の田中宏樹です。医療保険、介護保険分野のそれぞれで経験を積みながら、経営・マネジメントの勉強・情報発信も行っています。認定理学療法士(脳血管・運動器)/ ドイツ筋骨格医学会認定マニュアルセラピスト / PNFアドバンスコース(3B)修了 / FBL Klein-Vogelbach 1,2a+b修了 / 成人ボバースアプローチ基礎講習会修了 / 健康経営EXアドバイザー /企業経営アドバイザー/作業管理士

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