脳卒中後の緊張した手足は改善するの?日常生活に制限を来たす痙縮への対応

脳卒中後のリハビリにおいて、機能回復に制限を来たす要因に「痙縮」が挙げられます。

 

脳卒中発症後に手足が麻痺で動きにくく、思うように動けなくなるなど、痙縮による運動障害は日常生活に大きな影響を及ぼし、自立した生活を送るのに制限を来たします。

 

医学は日進月歩で進歩しており、痙縮に対する対処についても徐々に解明されていますが、いまだ確実な方法はありません。

 

今回は、日常生活に制限を来たす「痙縮」の原因や対処法について科学的な所見を提示しながら、解説していきます。

痙縮とは?

痙縮は運動の障害の1つで、脳卒中を発症された方や、脳性麻痺、脊髄損傷などの脳や脊髄の障害によって、筋肉が無意識に緊張しすぎる状態です。

 

海外では脳卒中の35%以上に痙縮がみられることが報告されており、日本における脳卒中患者数は、「平成26年 病院および診療所を利用する患者調査の概況(厚生労働省)」によると約118万人と報告されています。
(van Kuijk AA, Hendricks HT, Pasman JW, Kremer BH, Geurts AC:Are clinical characteristics associated with upper‒extremity hypertonia in severe ischaemic supra‒tentorial stroke? J Rehabil Med 39:33‒37, 2007.)

 

単純計算すると、脳卒中を発症後に痙縮を患っている方は41万人以上いることになります。

 

痙縮は主に「錐体路」と呼ばれる脳からの神経の通り道が障害を受けることで出現します。

この神経により通常は筋肉を適度な緊張状態に保つことができるのですが、障害されることで過剰な緊張が入るようになり痙縮と呼ばれる状態となります。

 

心理的な面も影響する

痙縮は心理的な状況にも影響されます

例えば、大勢の人が見守る前で歩いたり、滑りやすい地面や不整地などを歩行する際などは、恐怖心から筋肉の緊張が高まり、痙縮が強く出現することがあります。

 

痙縮がもたらす生活への影響

痙縮は手足(四肢)に出現しやすく、自分の意志で動かすことが困難で、勝手に動いてしまうため、いろいろな生活場面で支障を来たします。

 

主な症状を手(上肢)と足(下肢)に分けてみていきましょう。

痙縮の症状

手(上肢)

・歩いたりすると肘が勝手に曲がってしまう

・手首が内側に曲がってしまい、モノをつかみにくい

・指を握りこんでしまい、開くことができない

・わきの下あたりのツッパリ感がある

足(下肢)

・足先が内側を向いてしまい、体重をかけることができない

・足の指が曲がってしまい、歩くと痛みを感じる

・膝が曲がらず、足を振り回して歩いてしまう

 

上記の症状に加えて、痙縮による異常な姿勢が長期間続くと、筋肉の柔軟性が低下して伸びにくくなることで、関節が動きにくくなります。この状態が悪化すると『拘縮』と呼ばれる「関節の動きが、一定方向に制限」される状態になってしまいます。

(例:ひじを伸ばせなくなる。足首が下を向いたまま固まってしまう。)

 

また冬の時期などは寒さにより、「こわばり」や「つっぱり」が増えるため、痙縮がさらに悪化したように感じることもあります。

 

脳卒中後の痙縮に対する治療

医療機関での痙縮の治療には、幅広い選択肢があり、それぞれを組み合わせて用いることが一般的です。

 

「脳卒中治療ガイドライン2015」の痙縮への対応と推奨する治療法には以下のようなものがあります。
※原文ではなく、わかりやすく記述しております。

ガイドライン

1. 片麻痺(半身の麻痺)の痙縮に対して、抗痙縮薬(痙縮を抑制する)と言われる薬の処方を考慮することが勧められる(グレードA)重篤な痙縮に対しては、バクロフェンの髄注が勧められる(グレードB)

2.痙縮により手足の関節の動きが制限されている場合は、神経から放出される伝達物質をブロックするボツリヌス療法(保険適応外)(グレードA)が勧められる。また神経破壊薬による神経ブロックも勧められる(グレードB)

3. 痙縮に対し、高頻度のTENS(transcutaneous electrical nerve stimulation:経皮的電気刺激*¹)を行うことが勧められる(グレードB)

4. 慢性期(病状が安定している回復期以降の時期)の片麻痺患者の痙縮に対するストレッチ、関節を動かす運動が勧められる(グレードB)

5. 運動麻痺のある手(上肢)の痙縮には、痙縮のある筋肉を伸ばしたまま保持する装具の装着、またはFES(functional electrical stimulation:機能的電気刺激*²)付装具を考慮しても良い(グレードC1)

6. 痙縮のある筋肉を冷却したり温めたりすることを行っても良いが、十分な科学的根拠はない(グレードC1)

*1機能的電気刺激とは、筋肉や末梢神経を刺激することで運動麻痺のある筋肉を収縮させて、筋機能の改善を図るものです。

*2経皮的電気刺激とは、痛みを感じない程度の電流を流し、痛みや筋肉の緊張を和らげる低周波治療の1種になります。

はてな

推奨グレードの分類

・A:強く行うように勧められるれ

・B:行うように勧められる

・C:行うことを考慮しても良いが、十分な科学的根拠がない

・D:科学的根拠がないので、勧められない

・E:行わないように勧められる

ガイドラインの解説

抗痙縮薬・バクロフェン髄注療法

抗痙縮薬は、神経に作用して過剰な神経伝達の興奮を抑えたりする働きがあり、筋肉の緊張を和らげる働きがあります。

重度の痙縮を患っている方には、「バクロフェン髄注療法」と言われる、筋肉をやわらげる薬を直接脊髄に作用させることで、高い効果を得ようとする治療法があります。

 

ボツリヌス毒素・神経ブロック

ボツリヌス毒素を用いたボツリヌス療法は、しわ取りにも利用されるものです。

 

経口薬の抗痙縮薬などは全身に作用するため、投与される量が増えると全身に脱力が起こるなど副作用が生じやすくなります。一方、ボツリヌス療法は特定の筋肉に注射をするだけなので、全身的な影響を受けにくくなります。

 

局所的に神経ブロックの治療が行われることもありますが、効果としては半年程度で、それ以降は効果が弱まるとされています。

 

経皮的電気刺激療法

経皮的電気刺激法は、痙縮のある筋肉と相対する動きを行う筋肉に対して電気刺激を行うことで、痙縮筋の働きを抑える作用があります。

 

また経皮的電気刺激であるTENSは装具などと併用して運動することで、運動機能の改善が期待できます。

 

温熱療法

痙縮のある筋肉を直接温めることは、安静にしているときの筋肉の過剰な緊張を和らげる作用が報告されています。

 

リハビリの現場では、筋肉を温めてから、関節を動かす運動やストレッチと同時に行っている場合もあります。
(Harlaar J, Ten Kate JJ, Prevo AJ, Vogelaar TW, Lankhorst GJ. The effect of cooling on muscle co-ordination in spasticity:assessment with the repetitive movement test. Disabil Rehabil 2001;23:453-461)

 

装具療法

装具を用いて持続的に筋肉を伸ばす治療については、痙縮をやわらげるといった作用も報告されており、神経ブロックなどと組み合わせて行うこともあります。
(Yeh CY, Tsai KH, Chen JJ. Effects of prolonged muscle stretching with constant torque or constant angle on hypertonic calf muscles. Arch Phys Med Rehabil 2005;86:235-241)
(田中直次郎,東海林淳一,八並光信,他.痙縮筋に対する持続伸張訓練効果に関する検討. 運動療法と物理療法 2001;12:193-198)

 

このほか、状況によって手術を行う場合もあります。

痙縮に対する運動の効果

痙縮筋に対しては、実際にどういった運動を行うことがよいのでしょうか。ここからは、痙縮に対する運動の効果について見てきましょう。

 

ストレッチ

痙縮に対してリハビリを行う際、まず筋肉の線維が短くなり、拘縮と呼ばれる状態になるのを予防することが重要となってきます。

 

そのため、筋肉を持続的にストレッチすることも大切になります。

 

持続なストレッチを行うことで、 筋肉の過剰な緊張が低下して痙縮が抑制されます。

筋力トレーニング

機能改善を目的とした筋力トレーニングは、痙縮に対して悪影響を及ぼすと考えらてきましたが、科学的には否定的な意見が多く、痙縮は悪化しないとされています。

 

つまり痙縮があっても、筋力増強いわゆる筋トレは効果があるとされています。

 

「痙縮と筋トレ」についてはこちらの記事もご覧ください。

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脳卒中発症後の筋力低下は、活動量の低下を引き起こすだけでなく、不活動による筋肉の粘弾性(粘性:粘り具合+弾性:戻ろうとする力)の変化にも影響してきます。

 

粘弾性の粘性も弾性も動かないことにより増加してしまい、筋肉が緊張しやすくなります。簡単に言えば、「筋肉の質が変化して痙縮が強まる可能性がある」ということになります。
(沖田 実 : 関節可動域制限の病態生理. 理学療法 2003 ; 20 : 603.611)

反復運動

脳卒中ガイドラインでは、「痙縮筋に対して反復する荷重が、痙縮を増悪させることはなく、むしろ随意運動の回復とともに痙縮の改善が期待できる」と示されています。

 

例えば、「促通反復療法」と言われる手技は、脳卒中後の麻痺に対して、新しい神経の通り道を作ったり、神経の通り道を強化することを目的としています。

この手技は各関節運動に対して一定回数(100回以上)反復・促通することで効果を得ようとする方法になります。

 

促通反復療法は電気刺激療法などと併用することで、回復が著しい回復期だけでなく、回復の見込みが減少してくる生活期にも効果が期待されるとしています。
(野間 知一ら:慢性期の脳卒中片麻痺 上肢への促通反復療法の効果.総合リハ 2008;36:695-699.)

 

また様々な手技以外にも、私たちが普段行っている「寝返り」「起き上がり」「立ち上がり」などの正常な動作は、非常に効率のいい動作になります。

 

脳卒中片麻痺の場合は、体の各部位が協調して動くことが難しくなるため、正常な動作を繰り返し行うことでも、過剰な努力や精神的な不安面が減少することで痙縮を抑えることができます。

 

他にも、脳卒中後の片麻痺を患った生活期の脳卒中患者さまに対して,麻痺のない方の手(上肢)を積極的に運動させることで、麻痺側の手(上肢)の痙縮が軽減するといった報告もみられています。

(Sakamoto K, Nakamura T, Uenishi H, et al. Immediate effects of unaffected arm exercise in poststroke patients with spastic upper limb hemiparesis. Cerebrovasc Dis 2014;37:123- 127.)

 

手足の運動を行わないことによる不使用は、脳の変化を引き起こし、使用しない手足の脳の領域は小さくなるため、積極的に動かして脳を刺激することも大切になります。

 

おわりに

痙縮筋に対するリハビリは単独の方法だけでなく、いくつもの治療を組み合わせて、複合的に用いることが最近では重要となっています。

ボツリヌス療法後や電気刺激療法と合わせた、運動療法の効果を報告するものも増えています。

治療と合わせて「運動」を取り入れながら、痙縮の改善を図っていきましょう。

 

 

参考文献

・池田 巧 ら:リハビリテーション医療における痙縮治療 京一日赤医誌 第 1 巻 1 号 2018 年 11 月 1 日

・内山 卓也 ら:痙縮の疫学と治療 脳外誌 26巻12号 2017年12月

・島岡 秀奉 ら:痙縮に対する持続伸張と連続的他動運動の比較検討. 総合リハビリテーション 2004;32:1181-1186

・Fujiwara T, et al: Electrophysiological and clinical assessment of a simple wrist-hand splint for patients with chronic spastic hemiparesis secondary to stroke. Electromyogr Clin Neurophysiol 2004;44:423-429 32)

・Nuyens GE, et al: Reduction of spastic hypertonia during repeated passive knee movements in stroke patients. Arch Phys Med Rehabil 2002;83:930-935 33)

・Ushiba J, et al:.Changes of reflex size in upper limbs using wrist splint in hemiplegic patients. Electromyogr Clin Neurophysiol 2004;44:175-182

・泉從道 ら:脳血管障害片麻痺患者の患側上肢の筋緊張亢進に対する高温浴 と赤外線照射の効果 表面筋電図による解析.日温気候物理医会誌 1997;60:209-220

・下堂薗 恵:促通反復療法の治療成績と効果的な併用療法の開発 臨床神経 2013;53:1267-1269

・園田 茂:不動・廃用症候群.Jpn J Rehabil Med 2015 ; 52 : 265-271

・井上 陽介 ら:相反抑制を用いたストレッチングの有効性 West Kyushu Journal of Rehabilitation Sciences6:25-28,2013

・後藤 淳:筋緊張のコントロール 関西理学3: 21-31,2003

 

 

  • この記事を書いた人

田中 宏樹

After Reha代表の田中宏樹です。医療保険、介護保険分野のそれぞれで経験を積みながら、経営・マネジメントの勉強・情報発信も行っています。認定理学療法士(脳血管・運動器)/ ドイツ筋骨格医学会認定マニュアルセラピスト / PNFアドバンスコース(3B)修了 / FBL Klein-Vogelbach 1,2a+b修了 / 成人ボバースアプローチ基礎講習会修了 / 健康経営EXアドバイザー /企業経営アドバイザー/作業管理士

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