近年の研究で腸内環境が私たちの心身の健康に大きな影響を与えていることがわかってきました。特に発達障害のあるお子さんにとって、腸内環境を整えることは重要な意味を持つ可能性があります。
この記事では腸内環境と感情の関係、腸内環境の重要性、腸内環境が悪いと起こる問題、そして子どもの腸内環境を整える方法について詳しく解説していきます。
腸内環境と感情の関係
腸内には約1000種類、100兆個以上もの細菌が生息しており、これらの細菌が私たちのカラダの健康に重要な役割を果たしています。
単に食べ物を消化・吸収するだけではなく、腸は「第二の脳」とも呼ばれるほど、私たちの感情や心の状態に大きな影響を与えています。
この関係は「脳腸相関」と呼ばれ、脳と腸が密接に連携していることを表しています。
脳腸相関
腸は脳から独立した独自の神経ネットワークを持っていて、自律神経やホルモンなどのを介して双方向に影響を及ぼし合っています。
特に注目すべきは、腸内で作られる神経伝達物質です。
例えば「幸せホルモン」とも呼ばれるセロトニンは、その90%以上が腸内で作られています。セロトニンは脳の興奮を抑えて気分を安定させ、幸福感をもたらすホルモンです。
またドーパミン(快感や意欲、運動調節などに関係)やノルアドレナリン(や)など、他の重要な神経伝達物質も腸内で作られています。
ドーパミン
快感、意欲、集中力を高める、気分を安定させる、運動能力を向上させるなどに関係しています
ノルアドレナリン
やる気や集中力が高まり、ストレスに対する耐性も強くなる
つまり腸内環境が整っていると、これらの「幸せホルモン」がバランスよく分泌され、心の安定につながるのです。
逆に腸内環境が乱れると、これらのホルモンのバランスが崩れ、不安やイライラ、落ち込みなどの感情の乱れにつながる可能性があります。
発達障害のあるお子さんの中には、感情のコントロールに困難を感じる方も多いですが、腸内環境を整えることで、そうした課題の改善につながる可能性があります。
腸内環境が悪いと起こる問題
腸内環境を整えることが大切というのは、耳にしたことがあるかと思います。腸が整っていることは全身の健康、そして心の健康にも大きな影響を与えます。
逆に腸内環境が乱れると様々な問題が起こります。これは発達に特性があるお子さんだけでなく、大人にも共通する部分ですので、以下のような問題は理解しておきましょう。
消化器系の問題
直接的な影響としては、便秘・下痢・腹痛などの消化器系の問題が起こりやすくなります。こうした状態は日常生活や学校生活に大きな支障をきたし、生活の質が低下します。
また腸内に住んでいる細菌は食物繊維を分解し、ビタミンを合成するなど、栄養吸収を助ける重要な役割を果たしています。栄養の吸収に関係しているため、子どもの成長と発達に直接関わる重要な要素になりますが、腸内環境が悪化するとこうした吸収も不十分となり、カラダの成長にも影響を与えてしまいます。
2. 感情の不安定
前述したように、腸内環境の乱れはセロトニン(興奮を抑えるホルモン)などの神経伝達物質のバランスを崩します。その結果イライラや不安、落ち込みなどの感情の乱れが起こりやすくなります。
腸内環境は自律神経系に影響を与えます。腸内環境が整っていると自律神経のバランスが取れ、ストレスへの耐性が高まります。
一方、発達に特性のあるお子さんの中には、もともと感情のコントロールに困難を感じている方も多いため、症状が悪化する可能性もあります。
3. 集中力の低下
腸内環境の乱れは脳の機能にも影響を与えます。腸の中の細菌は認知機能にも影響しているので、集中力の低下や記憶力の減退などが起こる可能性があります。
また頭痛や気分の悪さといった症状を感じることもあり、学習や日常生活に支障をきたす可能性があります。
4. 睡眠の質の低下
通常はメラトニンなどの睡眠に関わるホルモンの分泌が促進され、睡眠の質が向上します。中国の研究チームが2024年10月に発表した研究では、早く寝る子どもの腸内環境が健康であることが明らかになっています。
メラトニン
睡眠や覚醒のリズムを調整する役割があります
しかし腸内環境が乱れるとホルモンの分泌バランスがくずれてしまい、寝つきが悪くなったり、夜中に何度も目が覚めたりするなど、睡眠の質が低下する可能性があります。そのため良質な睡眠はカラダの発達に欠かせないため、この影響は無視できません。
5. 免疫力の低下
腸の中には、体を守る細胞(免疫細胞)がたくさん集まっています。これらの細胞は体に悪いものが入ってこないように見張り番をする役割があります。腸内の細菌は
- 体を守る細胞を活性化する
- 悪い細菌から体を守る
- 栄養を作り出す
こうした役割があるため、腸内環境の乱れは免疫力に影響を与えます。その結果、風邪などの感染症にかかりやすくなったり、アレルギー症状が悪化したりする可能性があります。
6. 自閉スペクトラム症(ASD)の症状悪化
最近の研究では腸内環境と自閉症スペクトラム症(ASD)の症状に関連があることが示唆されています。ASDの子どもの30〜50%が下痢や便秘などの消化器症状を経験している言われ、腸内環境が悪化していることが報告されています。
この原因としてASDの子どもたちの腸内細菌叢には、以下のような特徴があることが影響していると考えられています。
- ビフィズス菌などの善玉菌が少ない
- 腸内細菌の多様性が低い
- 特定の細菌が過剰に存在する
このような状態により、腸内環境が乱れると症状が悪化する可能性があるという報告があります。
一方で腸内環境を改善することでASDの症状が緩和される可能性が示されています。アリゾナ州立大学の研究チームが行った研究では、健康な人の腸内細菌叢を移植する治療を2年間行った結果、ASDの症状が約45%減少したと報告されています
子どもの腸内環境を整える方法
では、具体的にどのようにして子どもの腸内環境を整えればよいのでしょうか。以下に、実践しやすい方法をいくつか紹介します。
バランスの取れた食事
バランスの取れた食事は健康的な腸内環境を維持するための基礎となります。ここなくして腸内環境を整えることは難しくなります。食べたもので子ども達は大きくなるので、特に以下の点に注意した食事を行うことが重要です。
和食中心の食事
日本人の腸は食物繊維を多く含む食事に適応しています。和食は主食(米)、主菜(魚や肉)、副菜(野菜)、汁物(味噌汁)などで構成され、バランスの取れた栄養摂取が可能なので、腸内環境を整えるには適しているのです。
また和食は一般的に油の使用が少なく、蒸す、煮る、焼くなどの調理法が多いため、低脂肪・低カロリーな食事になりやすいのも良い点になります。
和食中心の際は発酵食品(味噌、醤油、納豆、漬物など)を多く取り入れた食事にすると、腸内細菌のバランスを整えるのにより効果的です。
食物繊維の摂取
野菜、果物、全粒穀物などの食物繊維は善玉菌の餌となり、腸内環境を改善します。食物繊維には水溶性と不溶性があり、どちらもバランスよく摂取することが大切です。
水溶性食物繊維:便を滑らかにして排便をスムーズにする
- 穀類(麦類など)
- 野菜類(オクラ・モロヘイヤなど)
- 海藻類(わかめ、こんぶなど)
- 果物類(りんごやプルーンなど)
不溶性食物繊維:腸のデトックス効果に優れている
- 豆類(大豆、いんげん豆など)
- 根菜類(ごぼう、たけのこなど)
- きのこ類(ぶなしめじ、しいたけなど)
プロバイオティクスの摂取
ヨーグルトなどの発酵食品は、腸内環境改善に最も取り入れたい食品として挙げられています。免疫機能の向上や下痢・便秘の症状改善にも効果が期待できます。
プロバイオティクスには乳酸菌、ビフィズス菌、酪酸菌などがあります。これらはヨーグルト、納豆、味噌、キムチなどの発酵食品に豊富に含まれています。まずは朝食にヨーグルトを追加するだけでも構いませんよ。
一方で下記のような食生活は腸内環境を悪化させる可能性があるので、控えるようにしましょう。
- 加工食品や脂っこい食事
- 糖分の多い食品
- 香辛料の多い食事
- カフェインを含む飲料
規則正しい生活リズム
子どもの腸内環境を整えるには、規則正しい生活リズムが重要です。早寝早起きを心がけ、毎日決まった時間に食事をとるなど、規則正しい生活リズムを作るにより、腸の動きも規則正しくなります。
- 早寝早起き
夜9時頃までには就寝し、早起きする習慣をつけることが大切です。
- 食事時間の規則性
一定の時間に食事を取ることで、腸の働きが活性化されます。
- 十分な睡眠
良質な睡眠は腸内環境の維持に不可欠です。「快眠、快食が快便につながる」という考え方が重要です。
適度な運動
適度な運動は腸の動きを活発にし、便秘の予防にも効果があります。お子さんの好きな運動や遊びを取り入れて、楽しみながら体を動かす機会を作りましょう。
- 日中の活発な活動
昼間たくさん遊ぶことで、夜はぐっすり眠れるようになります。
- 腸のぜん動運動の促進
運動は腸のぜん動運動を促進し、便秘の予防にも効果があります。
- ストレス解消
運動はストレス解消にも効果があり、ストレスによる腸内環境の乱れを防ぎます。
リラックスとスキンシップ
リラックスした状態を作ることは、腸内環境の改善に重要になります。特にストレスは腸内環境に悪影響を与えます。お子さんのストレスの原因を把握し、適切に対処することが大切です。
リラックスできる時間や場所を作ったり、お子さんの好きな活動を取り入れたりするなど、ストレス解消の機会を設けましょう。
- 入浴
入浴はリラックス効果が高く、便意を促す効果があります1。
- スキンシップ
親子で一緒に入浴したり、お腹をマッサージしたりすることで、副交感神経が活性化され、腸の動きが良くなります。
- ストレス管理
緊張度の高い神経質な子どもは便秘になりやすいため、リラックスできる環境作りが大切です。
おわりに
腸内環境を整えることは、発達障害のあるお子さんの心身の健康と成長にとって非常に重要です。腸は単なる消化器官ではなく、私たちの感情や行動、そして全身の健康に大きな影響を与える「第二の脳」だからです。
ですが腸内環境の改善は一朝一夕にはいきません。根気強く継続することが大切です。これらの方法を日常生活に取り入れて、お子さんと一緒に、楽しみながら取り組める工夫を考えてみましょう。
腸内環境についてはこちらの記事でも詳しく解説しています。
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参考【予防】免疫力アップの鍵を握る『腸内環境』を整えるには?
感染症が流行したこともあって、免疫力向上が大切とメディアではよく取り上げられていまいた。 でも免疫力を高めるにはどういったことをしたらいいのだろう?そう悩んだことがある方も多いはずです。 ...
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参考文献
Chunmei Mao,et al:Characteristics of gut flora in children who go to bed early versus late.Scientific Reports volume 14, Article number: 23256 (2024)
Decrease of α-defensin impairs intestinal metabolite homeostasis via dysbiosis in mouse chronic social defeat stress model.
Effectiveness of structured physiotherapy in constipation in children with neurodevelopmental disorders-a randomized trial.
子どもの腸内環境改善についての意識調査(プレスリリース)