2021年現在、各市町村では地域ケア会議が開催され、薬剤師や管理栄養士、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士や歯科衛生士といった有資格者が助言者として参加しています。
助言者には報酬が出されている事も多く、自身の経験や知識をマネタイズできる場所とも言えます。
地域ケア会議に参加しているが、なかなか求められている助言ができないといったセラピストや、興味はあるけど助言者として役に立てるか不安だといったセラピストは多いのではないでしょうか。
そのような方々のお役に少しでもたてればと思い、自身の経験も踏まえてブログを書きます。
地域ケア会議とは、日本の高齢化社会が進んでいくなかで、高齢者の方々が地域で自分らしい生活を送っていくためにはどうすればいいのかを考える会議です。
包括的な支援・サービス(地域包括ケアシステム)を構築するために行われており、個別ケースの検討や地域での課題を検討します。
以下厚労省HPより抜粋
地域包括ケアシステムの実現へ向けて
日本は、諸外国に例をみないスピードで高齢化が進行しています。
65歳以上の人口は、現在3,500万人を超えており、2042年の約3,900万人でピークを迎えますが、その後も、75歳以上の人口割合は増加し続けることが予想されています。
このような状況の中、団塊の世代が75歳以上となる2025年(令和7年)以降は、国民の医療や介護の需要が、さらに増加することが見込まれています。
このため、厚生労働省においては、2025年(令和7年)を目途に、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進しています。
地域ケア会議について
地域包括ケアシステムを構築するためには、高齢者個人に対する支援の充実と、それを支える社会基盤の整備とを同時にすすめることが重要です。厚生労働省におきましては、これを実現していく手法として「地域ケア会議」を推進しています。
(出典):厚生労働省HP
助言者を職能団体に依頼している行政も多く、理学療法士や作業療法士としての参加は、「日本理学療法士協会」「日本作業療法士協会」における基準を満たした人が派遣されている場合がほとんどのようです。
具体的には、理学療法士は「地域包括ケア推進リーダーの取得」、作業療法士は「生活行為向上マネジメント研修の受講」を各協会にて行い、且つ、各都道府県士会推薦での派遣が多数です。中には、地域ケア会議を開催する行政が個人的に依頼している場合もあるようです。
はじめに
今回は、個別ケースへの助言に絞ってポイントをあげていきます。
必要なのは助言であって、高圧的な指導であってはいけません。
地域で暮らす高齢者の方々の自立支援を、行政・ケアマネジャー・サービス提供事業所の方々等と協力しながら会議の中で検討します。
よくある例として、質問ばかりして助言しないといった助言者もいるようなので、注意しましょう。
理学療法士も作業療法士も助言しやすいポイント
①環境設定
作業療法士が得意としていますが、理学療法士も深く関わっている部分なので助言がしやすいと思います。
住宅改修をしているのか、またその環境が適しているのかどうか等、必要であれば具体的な改修案(手すりの設置や段差解消、電動ベッドの設置など)を助言します。
注意点としては、介護保険における住宅改修には利用限度額があり、また、そこに使える財源も無限ではないということです。
対象者の能力向上と共に必要なくなるものは、レンタルで代用といった助言も行います。
過度な住宅改修をすすめるのは、対象者にとっても行政にとってもデメリットとなります。
②疾患に対する禁忌や予後予測
地域ケア会議の個別ケースでは、何らかの疾患をもたれている方がほとんどです。
セラピストは二次的な障害に対しアプローチしますが、疾患の基礎的な知識は有しているはずです。そこで、疾患に対する禁忌や予後予測を絡めた助言を行います。
注意点としては、専門用語を多用せず、わかりやすく説明したほうがよいでしょう。
③METs
理学・作業療法士の国家試験ではおなじみの運動強度単位、「METs」ですが、意外と世間では知られていません。しかし、この安静座位を1とするMETsは、運動と日常生活動作の比較が非常にしやすく、助言の参考になります。
また、METsの考え方自体を助言するのもひとつの手です。
理学療法士・作業療法士共に参加している会議もあれば、どちらか一方だけといった会議も珍しくはありません。
どちらも参加している場合は、助言内容が重複する場合も多くみられます。
他の助言者の発言をしっかりと把握し、協調性をもって助言しましょう。
理学療法士が助言しやすいポイント
①移動手段の検討
基本的動作の改善に努める理学療法士は、その対象者にあった移動手段を検討し助言することは独歩自立を除いては必要不可欠です。
対象者の状態に応じて、歩行補助具やサポーターの使用なども具体的に助言しましょう。
②自宅や事業所で取り入れられる運動
事例を提出するケアマネジャーから求められる最も多いものの一つが、『在宅でできる体操などはありますか』や『どのくらい(どのような)運動をしたほうがいいですか』といった自主トレに関しての内容です。
その対象者の状態を資料や質問でできる限り把握し、ピンポイントで実行可能な運動の助言を行えるとよいでしょう。
特に日本理学療法士協会は、介護予防にも力を入れているので、アピールするチャンスとも考えられます。
③運動機能の評価
握力や開眼片脚立ちなどの評価は、事前に事業所が行っている場合があります。
しかし、評価方法を間違っている事も多く、数値などが気になる場合は質問をして確認しましょう。
ケースによっては、その他の運動機能評価も定期的に行ったほうがよい場合があります。わかりやすく、評価方法を助言するのもよいでしょう。
作業療法士が助言しやすいポイント
①生活行為向上マネジメントの活用
本来はインテーク(本人や家族への意向の聞き取り)から始まる生活行為向上マネジメントですが、日本作業療法士協会が地域包括ケアシステムとして、作業療法の基本的枠組みをわかりやすく開発しただけあって、助言にも非常に役に立ちます。
特に目標設定の難しい対象者に対しては、『興味・関心チェックシート』単体での使用も助言の一つになります。
生活課題を工程分析し、どこに問題があり、どういった取り組みを行っていくことがよいのかといった、具体的な助言につなげることが出来ます。
②福祉用具の検討
生活課題において、福祉用具の検討は非常に重要です。
作業療法士は環境面からのアプローチを得意としているため、具体的な福祉用具の助言(ループ付きタオルや太柄グリップの使用など)を行うとよいでしょう。
助言と共に福祉用具のパンフレットを提示すると、対象者への実践度(助言の採用のしやすさ)も増すと思います。
福祉用具だけではなく、代償手段の助言が必要な場合もあります。
③認知症に対して
アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症等を呈している対象者のケースは非常に多く、それだけ自立生活を妨げる要因になっていることが伺えます。
中には、専門医の受診を行ってはいないが、認知機能の低下で生活に支障が出ているケースもみられます。その場合、専門医の受診を助言とすることも必要でしょう。
家族や事業所の関わり方や環境設定、エラーレス学習や回想法といった具体的訓練の助言も適切に行えるとよいでしょう。
また、同じく高次脳機能障害に対しても、作業療法士は助言を求められるでしょう。
言語聴覚士の助言しやすいポイント
①言語障害(失語症、構音障害)に対して
ケース数としては多くないでしょうが、言語障害が対象の際は積極的に助言を行いましょう。
専門用語は控え、できるだけわかりやすく、言語障害の特徴やコミュニケーションの図り方、訓練内容を助言できるといいでしょう。
②嚥下機能に対して
高齢者の多くは、嚥下機能が生理的にも低下していることがあります。
適切な嚥下体操などの訓練に加えて、誤嚥リスクを提示し、姿勢や食事形態の調整によるリスク軽減の方法なども具体的に助言しましょう。
嚥下評価等を事前に行えなかったといったケースもあるため、簡易的な評価方法や医療機関の受診を勧めることも必要になってきます。
管理栄養士や歯科衛生士と助言内容の重複はあると思いますが、協調性をもって、専門性を出していきましょう。
おわりに
上記のポイントはあくまでも助言の糸口です。
10人いれば10通りの、100人いれば100通りのケースがあります。
参加されるセラピストの方は、責任をもって、ケースごとに、知識・経験を活かした助言をおこなってください。
事前に資料が配布されるパターンであれば、熟読し、事前学習も必要な時があると思います。
資料を読み込んだ後は、いくつものパターンで検討を行います。
質問したい内容や、相手の回答まで予測しておくことも大事でしょう。
今後も地域ケア会議は、地域を支えていく重要な役割を担っていくと思います。
地域包括ケアシステムにおいて、セラピストが常に求められるように、皆で精進していきましょう。
こんな記事もおすすめ!
-
1人よりも効果あり!健康寿命を延ばすならグループで!
日本は国民医療費の増大が深刻となっていますが、高齢化率が30%に迫っていることもあり、これによる医療費の増大も少なからず影響していると思われます。 医療費の増大はほかにも、医療技術の進歩が影響している ...
続きを見る