「最初はいいんです。でも、だんだん」
先日、訪問先のご家族から、こんなご相談をいただきました。
「食事の最初はちゃんと座れているんです。でも、だんだん姿勢が崩れてきて。気づくと足を椅子に上げていて、ひどいときは机にまで乗せてしまって」
とてもよく聞くご相談です。
そして、この中には、実はとても大きなヒントが含まれています。
「最初はいい」という部分です。
もし座り方を知らないのなら、1分後も15分後も、同じように崩れているはずですよね。
でも実際は、最初は座れている。ということは、この子は「座れない」のではなく、「座り続けられなくなっていく」。
この2つはまったく別の話なんです。
今回はその点について詳しく見ていきましょう。
最初の5分カラダの中では?

食べ始めの5分間、背すじが伸びているとき。カラダの中では、地味だけれど大変な仕事が進んでいます。
私たちは、椅子に座ることを「何もしていない状態」だと思いがちです。
ところが研究では、姿勢を保つことは無意識の自動処理だけで完結しているのではなく、脳の「注意」という資源を実際に使っていることが示されています。
しかも、姿勢の課題が難しくなるほど、必要な注意の量も増えていきます。(Woollacott & Shumway-Cook, 2002)。
つまり、姿勢を保つことと、何かに集中することは、同じ能力から振り分けているんです。
そして食卓では、その元の能力から次々と分配していくことが必要になっていきます。
- 姿勢を保つ
- スプーンを操作する
- 食べ物を目で追う
- 噛んで飲み込む
- 家族の会話に答える
- 「立たない」「こぼさない」を守る
食事は、生活の中でいちばん複雑な同時並行作業のひとつなんです。
15分後、何が変わっているのか

では、15分後。カラダの中で何が減っているのでしょうか。
減っているものは、3つあります。
①カラダの中心を支える筋肉の持久力
これは私たちでもそうですが、長く座っていれば、当然疲れてきます。
②注意を向け続ける力
これは時間とともに目減りしていく性質があり、5〜7歳の子どもでも、課題を続けるうちに反応が遅くなっていくことが確認されています(Benitez & Robison, 2022)。
③「動きたい」を抑える力
抑制のブレーキです。これは疲れたときに、いちばん先にゆるみます。
この3つが、同じ時間帯にじわじわ減っていく。だから、ある瞬間にバタンと崩れるのではなく、10分かけて、少しずつ崩れていくという見え方になります。
さらに、就学前という年齢がここに重なります。
姿勢を保ちながら同時に頭を使う課題を行わせた研究では、4〜6歳の子どもだけが姿勢制御に干渉を受け、7〜12歳や成人では同じ干渉が見られませんでした(Reilly et al., 2008)。
「座りながら何かをする」。これは、まさにこの年齢の子にとって、いちばん難しい種類の課題なんです。
手先が苦手な子は、影響がもっと大きい

ここに、もうひとつ重なることがあります。手の操作です。
- スプーンでごはんをすくって、こぼさずに口まで運ぶ。
- 器のふちに当てて集める、傾きを保つ、口までの軌道を調整する。
手先の操作が苦手な子にとって、この一連の動作はとてもコストの高い作業です。
そして、その調整に注意を注げば注ぐほど、姿勢に回せる分が減っていきます。 元の持っている能力から機能を振り分けているですから、当然のことですね。
だから、手づかみのときは座れているのに、スプーンや箸を持ったとたんに崩れるという子どももいます。
この場合は姿勢そのものより、食具や食器を見直すほうが効くことがあります。
滑り止めマット、ふちの立った皿、その子の手に合ったスプーン。一口あたりのコストを下げてあげるイメージですね。
なぜ「足」なのか

では、なぜ崩れ方が「足を椅子に上げる」なのでしょう。
ここでひとつ、確かめていただきたいことがあります。いつも座っている椅子で、お子さんの足の裏は床に着いていますか。
足が宙に浮いていると、カラダを支えているのはお尻だけになります。
支えている面積が、とても狭い。その狭い土台の上で上半身をまっすぐ保ち、さらに手でスプーンを操作しなければならない。これは綱渡りのようなイメージに近いかもしれません。
そう考えると、片足を座面に上げてあぐらのようにするのは、自分で支えを広げにいっているとも読めます。
机に足を乗せるのも、「支点をつくる」という意味では同じ意味です。
行儀としては、もちろん直したいところです。
でも力学的には、その子なりに理にかなった工夫をしている。反抗ではなく、なんとかやり切ろうとした結果であることが少なくありません。
ご自宅でひとつだけ試すなら
料理より先に、椅子の下をのぞいてみてください。
目安は「90-90-90」。
股関節・膝・足首が、それぞれおよそ90度になる姿勢です。足の裏が、床か足置きにしっかり着いている状態と考えてください。
これは臨床の中で共有されてきた実践的な目安で、比較試験で効果が確立した基準ではありません。
ただ、足の支えが体幹の筋の働き方を変えるという研究知見とは、方向が一致しています。
足置きは、専用のものでなくて構いません。
- 牛乳パックに新聞紙を詰めて、テープで束ねる
- 古い雑誌を紐で縛る
- 収納ボックスを裏返して置く
大事なのは高さ合わせです。
横から見て膝がだいたい直角になるところが当たり。
数センチ違うだけで座り心地が変わるので、面倒でも何段階か試す価値があります。上に滑り止めシートを一枚敷くと、さらに安定します。
机の高さも合わせて見直しを。座ったときに肘が自然に乗るくらい、おへそからみぞおちのあたりが目安です。
足元が安定すると、それまで「なんとか座っていよう」に能力を分配していたものに余力が残り始めます。これにより、食べることや会話に回せるようになる。 ここが、いちばんの狙いです。
そしてもうひとつ。いちばん集中できる最初の10分に、いちばん食べてほしい一皿を出す。順番を入れ替えるだけでも、食卓の空気は変わるかもしれません。
こちらの記事では「よく噛まない」お子さんの記事も書いていますので、ぜひご覧いただければと思います。
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「少し気になるけれど、相談するほどかな」と感じる段階でも大丈夫です。
落ち着かないその姿の中には、その子なりの工夫が隠れていることがあります。それを一緒に見つけにいきましょう。
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参考
- Woollacott, M., & Shumway-Cook, A. (2002). Attention and the control of posture and gait: a review of an emerging area of research. Gait & Posture, 16(1), 1–14.
- Reilly, D. S., Woollacott, M. H., van Donkelaar, P., & Saavedra, S. (2008). Interaction Between the Development of Postural Control and the Executive Function of Attention. Journal of Motor Behavior, 40(2), 90–102.
- Benitez, V. L., & Robison, M. K. (2022). Pupillometry as a Window into Young Children's Sustained Attention. Journal of Intelligence, 10(4), 107.