子どもの「噛まない・詰め込み」はなぜ? 感覚統合の専門家が教える“お口”の育て方

「食事のたびに、口にパンパンに詰め込んでしまう」

「あまり噛まずに、水やお茶で流し込んでいる」

「固いものや繊維質のものを、すぐにペッと出してしまう」

 

保育園やご家庭で、お子さんのそんな姿にハラハラしたり、悩んだりしていませんか?

 

窒息の危険も心配ですし、「しっかり噛まないとお腹に悪いんじゃ…」「顎が育たないのでは?」と不安になりますよね。

 

この記事では、なぜお子さんが上手に噛めないのか、その背景にある「感覚統合」の視点と、ご家庭や園でできる簡単な「お口を育てる遊び」のヒントをご紹介します。

 

なぜ噛まずに飲み込むの? 3つの理由

口を大きく開く子供

「しっかり噛む」という動作は、私たちが思うよりずっと高度な技術です。

  1. 食べ物の固さや形を「感じ」(感覚入力)
  2. それを舌で左右に動かし、奥歯ですりつぶして「処理」(協調運動)
  3. 安全な大きさにまとめてから「飲み込む」(嚥下)

この一連の流れが必要なのですが、この連続した動きがスムーズに行えない背景には、主に3つの理由が考えられます。

 

1.口の感覚が「鈍感」すぎる(感覚の低反応)

これが「詰め込み」や「丸呑み」の最も多い理由の一つです。

 

専門的には「口腔感覚の低反応(鈍麻)」と言います。 私たちがカバンの中に手を入れると、目で見ていなくても「今、携帯を触ったな」「これがティッシュか」とわかりますよね。これは手の感覚が教えてくれるからです。

 

この感覚は口の中にも存在します。でも口の感覚が鈍感だと、口の中にどれだけ食べ物が入っているか、舌がどこにあるか、どのくらい噛んだかが分かりにくいのです。

  • 口の中の状態がのような状態なのかわからずに、頬が膨らむほど詰め込んで理解する。
  • どのくらい噛めば飲み込めるか「ちょうどいい加減」が分からないため、あまり噛まずに飲み込んでしまう。

強い刺激(大量の食べ物や、固いもの、味の濃いもの)を求めて、感覚を満たそうとしているサインでもあります。

 

2.お口の感覚が「敏感(びんかん)」すぎる(感覚の過敏)

逆に、感覚が過敏なケースもあります。

  • 特定の食感(野菜の繊維、キノコのくにゃっとした感じ、お肉の弾力など)が「痛い」「気持ち悪い」と感じてしまう。
  • その不快な感覚から逃れるため、なるべく噛まずに早く飲み込んで、口の中からなくそうとする。

これが偏食の原因になっていることも非常に多いです。

 

本人にとっては、がんばって口に入れたものの、不快な刺激に耐えきれずに出してしまったり、丸呑みしたりしているのです。

 

3. お口を動かす「筋肉」と「協調性」が育っていない

しっかり噛むためには、唇を閉じる力、舌を巧みに動かす力、顎をリズミカルにすりつぶす力が必要です。

  • 唇の力(口唇閉鎖力)が弱いと、口から食べ物がこぼれやすくなります(ポロポロ食べ)。
  • 舌の運動が未発達だと、食べ物を奥歯に運んだり、口の中でまとめたりすることが難しくなります。

これらは、いわゆる「お口ポカン(口呼吸)」や、よだれが多いこととも関連しています。お口周りの筋肉や、舌・唇・顎のチームワーク(協調運動)が、食事という複雑なタスクに追いついていない状態です。

 

 

このほかにも、「体幹」に注目することが必要です。

 

私たちがもし、グラグラ揺れるバランスボールの上でご飯を食べようとしたら、どうでしょう? しっかり噛むことより、倒れないようにバランスを取ることに必死になってしまうことでしょう。

 

食事も同じです。 安定した「土台」があって初めて、私たちは顎をリラックスさせ、自由に動かして「噛む」ことに集中できるのです。

 

まっすく座れないお子さんのことを解説した記事はこちら

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感覚と運動を育てる「お口の土台づくり」遊び

ピーマンを食べる子供

こういった場合、どうすれば対応すれば良いのでしょうか。 丸呑みする子どもに「しっかり噛んで!」と声かけをしても、感覚や運動の根本的な課題は解決しにくいです。

 

そこで大切なのは食事の時間以外で、遊びを通して「お口の感覚」と「運動」の土台を育てることです。ここでは、ご家庭や園で簡単にできる3つのアプローチを紹介します。

 

1. 【感覚】お口や口周りのふれあい遊び

まずは、お口周りの感覚を「目覚めさせる(鈍感な場合)」または「慣れさせる(過敏な場合)」ことから始めます。

①「ほっぺ」タッチ & マッサージ

(目的)

口輪筋・頬筋に 固有覚(しっかりした触れ) が入ると、口の動きへの自覚が高まり、噛む動きに繋げる。

 

(やり方)

  1. ほっぺを手のひらで 包み込むように 3秒。

  2. 指の腹で、ほっぺ→鼻の横→口の周りを 円を描くようにクルクル

  3. 最後に 唇を“トントン” と軽くタッチ。

②くちびる・ほっぺの感覚あそび

(目的)

やさしい触覚+しっかりした圧+温度刺激 の組み合わせで、口の動きの準備が整え、飲み込み急ぎを防ぐ「お口の意識スイッチ」が入れる

 

(やり方)

  1. 唇の上・下を、指先でスーッと軽いなで

  2. そのあと、ほっぺを手のひらでギュッと包む(3秒)

2. 【運動】「吹く・吸う」遊びで筋力アップ

唇や頬の筋肉は「吹く」「吸う」動作で鍛えられます。

①ストローで「ぷくぷく水中あわあそび」

(目的)
口まわりの筋肉(口輪筋)と呼吸のコントロールが整い、食べ物を一旦口に留める力につながる。

 

(やり方)
ストローでコップの水に息を吹き入れて、ブクブク泡をつくる。

→ 強く → ゆっくり → 長く と難易度を変える。

 

(ポイント)

  • 上唇にストローを「のせる」意識(噛まずに保持)
  • 姿勢は足裏が床に着くようにする

②「吸って→止めて→ポン!」綿ボール吹き飛ばし

(目的)

舌の動きのコントロールと呼吸コントロールを育て、食塊形成を助ける。

 

(やり方)
① ストローで綿ボールを吸ってストローの先にくっつける
② 1秒止める
③ ふーんと吹いて飛ばす

 

(ポイント)
「吸う→保持→吹く」=舌と口唇のポジション切替トレーニングになる

3. 【感覚+運動】「カミカミ」おやつタイム

噛む練習は、食事以外の「おやつ」で取り入れるのも1つの方法です。

「カミカミ・ジャーキー」

ビーフジャーキーや、スルメ、固めのグミ、ドライフルーツなど、しっかり噛まないと飲み込めない食材を少量試してみましょう。

 

(ポイント)

奥歯でしっかり噛めているか、横で見てあげてください。無理強いはせず、楽しい雰囲気の中で「モグモグ上手だね」と具体的に褒めることが大切です。

 

まとめ

お子さんが噛まずに飲み込んでしまう背景には、「感覚の鈍感さ・過敏さ」や「お口の運動の未発達」が隠れているかもしれません。

 

大切なのは、食事の時だけ「噛みなさい!」と叱るのではなく、日常の遊びの中で、お口の感覚と運動の土台を楽しく育んであげることです。

 

お口が上手に使えるようになると、しっかり噛めるようになるだけでなく、言葉の発音(構音)が明瞭になったり、表情が豊かになったりすることにも繋がっていきますので参考になれば幸いです。

 

 

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  • この記事を書いた人

田中 宏樹

After Reha代表の田中宏樹です。医療保険、介護保険分野のそれぞれで経験を積みながら、経営・マネジメントの勉強・情報発信も行っています。認定理学療法士(脳血管・運動器)/ ドイツ筋骨格医学会認定マニュアルセラピスト / PNFアドバンスコース(3B)修了 / FBL Klein-Vogelbach 1,2a+b修了 / 成人ボバースアプローチ基礎講習会修了 / 健康経営EXアドバイザー /企業経営アドバイザー/作業管理士

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