「足は速いのに、八の字になると急にぎこちない」
「八の字だとコーンの所で曲がらずまっすぐ進んでしまう」
園や療育の現場で、こうした場面に出会うことはありませんか?
不思議なのは、「運動が得意な子」でも「そうでない子」でも、どちらにも起こるということです。
つまり八の字走りやスラロームの苦手さは、足の速さや全体的な運動能力の高さとは、別のところに理由があります。
この記事では、八の字走りやスラロームがなぜ難しいのか、その背景にある力を理学療法士の視点から整理し、現場やおうちで使える観察チェックリストと、すぐに試せる5つのステップをご紹介します。
八の字走りは「速く走る運動」ではない

直線を走るときは、基本的に「前へ進む」力が中心になります。向かう方向がはっきりしているので、姿勢を保って腕を振り、足を運べば前に進めます。
ところが、八の字走りやスラロームは前へ進みながら曲がる運動です。
曲がりながら次の方向を見て、右回りと左回りを入れ替え、スピードをゆるめ、足を置く場所を決め、外側に流れそうな身体を支える。これらを、走りながら同時に行っています。
だから八の字は、脚力そのものよりも、
- 姿勢を保つバランス・体幹の安定(動的なバランス)
- 自分の身体の位置を感じる感覚(ボディイメージ・固有受容覚)
- 先を見て判断する見る力(視空間認知)
- 身体の右と左を切り替える力(正中線をまたぐ動き)
- 次の動きを前もって準備する予測の力
- 場面に合わせてスピードをゆるめる調整の力
といった、いくつもの育ち途中の力を束ねて使う運動なのです。
これらは3〜8歳ごろにかけて大きく育つ神経系の働きと重なります。
一般的なお子さんでも発達の途中にある力なので、八の字が難しいこと自体は、決してめずらしいことではありません。
なぜ「曲がる所で直進してしまう」のか

八の字でいちばんよく見られるのが、「曲がるべき所で曲がらず、そのまままっすぐ進んでしまう」という姿です。
これは、ふざけているわけでも、やる気がないわけでもありません。
身体にとって、まっすぐ走ることは“そのまま進めばよい”という、いわば初期設定の動きです。
一方で「曲がる」は、その手前で「もうすぐ曲がる」と気づき、視線を次へ送り、スピードをゆるめ、身体の向きを準備する――という、いくつもの段取りを前もって行う、計画的な動きです。
速い動きは、起きたことを感じてから直していたのでは間に合いません。そのため脳は、起きる前に「次はこう動く」と予測して身体を準備します(専門的にはフィードフォワード制御と呼ばれます)。
この「見て→判断して→準備する」流れがまだ育ち途中だと、子どもはコーンに着いてもまだ“まっすぐ進むモード”のままで、結果として曲がらずに直進したり、気づいたときには大きくふくらんでしまったりするのです。
観察チェックリスト
「できる・できない」ではなく、「どこでつまずいているか」を見ると、その子が今どの力を育てている最中なのかが見えてきます。
八の字やスラロームをしているお子さんを、次の視点で観察してみてください。
| チェック項目 | 関係していそうな力 |
|---|---|
| □ 曲がる所で止まらず、まっすぐ進んでしまう | 予測する力/見る力 |
| □ 曲がる直前まで方向を変えようとしない(準備が遅い) | 予測する力 |
| □ 次のコーン・目印を見ていない | 見る力(先読みの視線) |
| □ コーンに近すぎる/大きくふくらみすぎる | ボディイメージ・距離感 |
| □ 右回りはできるが左回り(または逆)が苦手 | 左右の切り替え・正中線をまたぐ動き |
| □ 右・左の切り替えで止まる、迷う | 左右の切り替え |
| □ スピードを落とせず、曲がりきれない | スピード調整(減速) |
| □ 曲がるとき身体が外へ流れる・崩れる・転ぶ | バランス・体幹の安定 |
| □ 足の置き場に迷う、足がもつれる | ボディイメージ・固有受容覚 |
チェックが多い=問題がある、ということではありません。
どの項目に当てはまるかで、その子が今いちばん育てている力のヒントが見えてきます。
たとえば「直進してしまう」「次のコーンを見ていない」が重なる子は、見る力と予測の力を育てる関わりが合いやすい、という具合です。
おうち・園でできる5つのステップ

八の字は、最初から速く走らせる必要はありません。次の順番で、少しずつ積み上げていきます。
Step
- ゆっくり歩いてコースをたどる
まずは歩くスピードで八の字を一周。「次はどのコーンを見る?」「今から右に回る? 左に回る?」と、視線と身体の動きをことばでつなげます。 - 大きく、ゆったり回る
小さく鋭く回るより、大きくゆったり回るほうが、身体の向きや足の置き場を感じやすくなります。 - 片側ずつ練習する
右回りだけ、左回りだけ、と分けて練習します。それぞれが安定してから、右・左・右・左と交互に切り替えていきます。 - 次のコーンを先に見る
「今のコーンを回りながら、次のコーンを見よう」「目が先、身体はあとからついてくるよ」。先読みの視線が、予測して曲がる動きにつながります。 - 少しずつスピードを上げる/減速を練習する
速く走るのは最後で十分です。「カーブの前はちょっとゆっくり」と、ブレーキの感覚も一緒に育てます。
遊びでもっと楽しく
- コーンに色をつけ、「次は赤!」と呼んで走る(見る+判断を同時に)
- 床に引いた線の上を歩いて八の字(足の置き場が分かりやすい)
- 大人と手をつないで一緒に回り、曲がるタイミングを身体で感じる
声かけの言い換え例
- 「もっと速く走って」→「次のコーンを見てみよう」
- 「ちゃんと回って」→「大きく回ってみよう」
- 「何回もやって」→「まずは右回りだけやってみよう」
気になるときの相談の目安
八の字が苦手なこと自体は、発達の途中でよく見られることです。
ただし、転びやすさやぶつかりやすさが日常生活でも目立つ、本人がとても嫌がって運動を避けるようになっている、といった様子が続く場合は、一人で抱え込まず、理学療法士・作業療法士などの専門家に相談すると、その子に合った関わり方が見つけやすくなります。
八の字走りやスラロームは、バランス・身体の位置感覚・見る力・左右の切り替え・予測する力が、いちばん見えやすい運動のひとつです。
After Rehaでは、宮崎で訪問による運動療育を行っています。
お子さんの「この動きだけ苦手」の背景を一緒に紐解き、ご家庭や園でできる関わり方をご提案しています。気になることがあれば、お気軽にご相談ください。
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