夏の水遊びは最高の知育!脳と心を育む科学的根拠と発達障害への効果を徹底解説

うだるような暑さが続く夏。子供たちにとって最高の楽しみの一つが「水遊び」です。

 

でも水遊びは単に涼しく、楽しいだけの活動ではありません。最新の研究では、水遊びが子供の脳機能の発達、心身の成長、さらには発達に特性のある子供たちの療育にもよい影響を与えることが明らかになっています。

 

  • 水遊びがなぜ「最高の遊び」と言えるのか?
  • 脳や身体、心にどのような良い影響があるのか?
  • 自閉症スペクトラム(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)など、発達に特性のある子供にとって、水遊びはどのような意味を持つのか?

 

この記事ではこれらの疑問に、科学的根拠(エビデンス)をもとに詳しくお答えしていきまので、ぜひこの夏、お子様との水遊びの参考にしてください。

 

水遊びの4つのメリット

水遊びが子供の発達に良いとされる理由は、水という特殊な環境が、陸上では得られない多様な感覚刺激と運動機会を提供してくれるからです。ここでは、主な5つのメリットを科学的根拠とともに解説します。

 

1. 脳と身体をつなぐ「感覚統合」を促す

水滑り台で遊ぶ子供達

私たちの脳は、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の五感に加え、体の傾きやスピードを感じる前庭覚(ぜんていかく)や、手足の位置や筋肉の動きを感じる固有覚(こゆうかく)といった感覚からの情報を整理・統合することで、周囲の状況を理解し、適切に行動しています。

 

このプロセスを「感覚統合」といいます。水遊びは、この感覚統合を促すための刺激の宝庫です。

 

  • 触覚刺激

全身の皮膚で水の冷たさや温かさ、流れ、水圧を感じます。これは非常に広範囲で包括的な触覚刺激となります。

  • 前庭覚刺激

水中で浮いたり、沈んだり、回転したりすることで、体のバランス感覚を司る前庭覚が強く刺激されます。

  • 固有覚刺激

水の抵抗に逆らって手足を動かすことで、筋肉や関節への刺激(固有覚)が常に入力されます。

 

米国の作業療法士であるA. Jean Ayres博士が提唱した感覚統合理論では、これらの多様な感覚入力が脳の神経回路を発達させ、自分の身体がどうなっているのかを認識する力(ボディイメージ)や、複数の動きをスムーズに行う協調運動能力の基礎を築くとされています。

 

水中で手足を動かすという単純な動作一つとっても、脳は「水の抵抗」「浮力」「体の傾き」といった膨大な情報を処理し、適切な力の入れ具合をフィードバックしています。この繰り返しが、脳機能の組織化を助け、結果として運動能力だけでなく、学習能力や集中力の土台をも育むのです。

 

2. 「実行機能」を鍛える

水辺で遊ぶ子ども

実行機能とは「目標達成のために思考や行動をコントロールする」脳の前頭前野が司る高次認知機能です。前頭前野の働きには以下のようなものが含まれます。

 

  • 「ワーキングメモリ(一時的な記憶)」
  • 「抑制コントロール(衝動の制御)」
  • 「認知の柔軟性(思考の切り替え)」など

 

学業成績や社会生活において不可欠な能力とも言われていますが、水遊びはこの実行機能を自然な形で鍛える絶好の機会になります。

  • 計画と問題解決

「どうすれば水を遠くまで飛ばせるか?」「このおもちゃを浮かべるにはどうしたらいいか?」といった疑問に対し、子供は自ら仮説を立て試行錯誤します。このプロセスが、計画性や問題解決能力を養います。

 

  • 創造性

水という決まった形のない素材は、子供の創造性を最大限に引き出します。コップからコップへ水を移す、泥と混ぜてみる、葉っぱを浮かべて船にするなど、遊び方は無限です。

 

  • 科学的思考の芽生え

浮力、抵抗、表面張力、因果関係(蛇口をひねると水が出るなど)といった科学的な概念の基礎を、遊びながら直感的に学びます。

 

研究では構造化されていない自由な遊びが、子供の実行機能の発達に重要であることが示唆されています。水遊びはまさにその代表例であり、子供が自ら遊びを創造し、ルールを発見していく過程で、賢い脳が育まれていくのです。

 

3.筋力とバランス能力の向上

水中では浮力が働くため、関節への負担が軽減されます。これにより、陸上では難しい動きやダイナミックな全身運動が可能になります。

 

筋力の発達

水の抵抗は陸上の約12倍とも言われています。水中で手足をバタバタさせたり、歩いたりするだけで、全身の筋肉が効率的に鍛えられます。

バランス能力の向上

不安定な水中で姿勢を保とうとすることで、バランス感覚を司る前庭覚が刺激され、平衡感覚が養われます。

心肺機能の強化

水圧が胸郭にかかることで、呼吸筋が鍛えられ、心肺機能の向上が期待できます。

 

発達障害のある子供たちを対象とした水治療法(アクアセラピー)の研究では、定期的な水中運動プログラムが筋力、バランス能力、歩行能力を有意に改善させることが複数報告されています。

 

これは健常な子供たちにとっても同様であり、水遊びは楽しみながら身体能力の基礎を築く、非常に優れたアクティビティと言えます。

 

4. ストレス軽減と情緒の安定をもたらすリラクゼーション効果

プールで浮かぶ子ども

水に触れること自体に、心を落ち着かせる効果があることは多くの人が経験的に知っているはずです。また水辺の空間が精神的にも影響があることは「ブルースペース」と呼ばれるワードと共に知られています。

 

水に浸かることは自律神経のうち心身をリラックスさせる「副交感神経」を優位にすると考えられています。水の音や揺らぎも、リラクゼーション効果を高め副交感神経を優位にしてくれます。

 

またプールや海で身体を自由に動かすことは、日頃のストレスや抑圧された感情を発散させ、精神的な解放感をもたらし、ストレスの軽減にも繋がります。

 

「水遊び」については、文部科学省も参考資料を掲載していますので、お時間ある方はぜひ一度ご覧ください。

 

発達特性のある子供と水遊び

水遊びがもたらす多様な感覚刺激や運動機会は、特に自閉症スペクトラム(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)など、発達に特性のある子供たちにとって、療育的な側面を持つ重要な活動となります。

 

自閉症スペクトラム(ASD)の子供への効果

水から出てきた子ども

感覚の過敏性や鈍麻、常同行動(同じ行動を繰り返すこと)といった特性を持つASDの子供にとって、水は非常に有効な感覚調整ツールとなり得ます。

 

  • 感覚調整とパニックの軽減

水が全身を包み込む圧力(水圧)は、不安を和らげるとされる「ディーププレッシャー(深い圧覚)」と同様の効果をもたらします。この均一で予測可能な感覚入力が、感覚過敏からくる混乱や不安を落ち着かせ、パニックを軽減するのに役立つと報告されています。

 

  • 常同行動の減少

水中での浮遊感や水の抵抗といった強い感覚刺激が、自己刺激行動(手をひらひらさせる、体を揺らすなど)の代わりとなり、結果として常同行動が減少する可能性が指摘されています。水という環境が、彼らの感覚的なニーズを満たしてくれるのです。

 

  • 社会性の促進

水遊びという楽しく、動機づけの高い環境は、他者への関心を高めるきっかけになります。言葉でのコミュニケーションが苦手な子供でも、水の掛け合いや同じおもちゃで遊ぶことを通して、非言語的な相互作用を経験しやすくなります。

 

注意欠如・多動症(ADHD)の子供への効果

波打ち際であそぶ子ども

多動性、不注意、衝動性といった特性を持つADHDの子供にとって、水遊びはエネルギーを適切に発散し、集中力を高めるための理想的な活動です。

 

  • エネルギーの効果的な発散

水の抵抗がある中での活動は、陸上での運動よりも多くのエネルギーを消費します。これにより、多動的なエネルギーを建設的な形で発散させることができます。活動後の疲労感は、落ち着きや入眠のしやすさにも繋がります。

 

  • 覚醒レベルの調整と集中力の向上

水の冷たさや動きといった感覚刺激は、脳の覚醒レベルを適度に高め、注意を維持しやすくする効果が期待できます。ADHDの子供は、感覚的な刺激が少ないと集中しにくい傾向があるため、水遊びは「ちょうどよい」刺激環境となり得るのです。

 

  • 衝動性のコントロール

水中では動きが自然とゆっくりになるため、衝動的に走り出すといった行動が物理的に抑制されます。自分の身体をコントロールする感覚を、安全な環境で学ぶことができます。

 

発達障がいについてはこちらの記事にも記載しています。

 

 

おわりに

水遊びを子供の発達にとって有意義な遊びですが、全ての子供が最初から水遊びを好きなわけではありません。水を怖がる子供に対して、「大丈夫だから!」と無理やり水に入れるのは逆効果です。恐怖心を植え付け、水嫌いの原因になりかねません。

 

まずは足先だけ、次に膝までと、子供のペースに合わせて少しずつ水に慣れさせましょう。ジョウロや水鉄砲など、水に直接入らなくても楽しめるおもちゃから始めるのも良い方法です。また大人が楽しむ姿を見せることは、子供にとって最高の安心材料になります。「気持ちいいね」「楽しいね」とポジティブな言葉をかけながら、一緒に楽しむ姿勢が大切です。

 

子どもの行動や発言に注意しながら、脳と身体、心を統合的に育む、科学的根拠に裏打ちされた水遊びを、ぜひこの「夏」楽しんでください!

 

参考

  • Jane E. Barker, Andrei D. Semenov, Laura Michaelson, Lindsay Provan, Heather L. Snyder, Yuko Munakata.Less-structured time in children's daily lives predicts self-directed executive functioning.Frontiers in Psychology(2014)
  • The Power of Play: A Pediatric Role in Enhancing Development in Young Children.American Academy of Pediatrics(2018)
  •  I. T. S. Fragala-Pinkham, M. A. Haley, S. M. O’Neil:A systematic review of the effectiveness of aquatic interventions for children with cerebral palsy.Physical & Occupational Therapy in Pediatrics(2008)
  • M. J. Breitenstein ,et al:Systematic Review of Aquatic Interventions for Children with Autism Spectrum Disorder.Research in Autism Spectrum Disorders(2020)
  • T. Nagasawa et al.:Effects of bathing on cardiac autonomic nervous function by examining heart rate variability.Japanese Circulation Journal(1999)
  • M. P. White, I. Alcock, B. W. Wheeler, M. H. Depledge:Blue space: The importance of water for preference, affect, and restorativeness ratings of natural and built scenes.Journal of Environmental Psychology(2013)
  • Aquatic Interventions in Children with Autism Spectrum Disorder: A Systematic Review of the Literature.Journal of Autism and Developmental Disorders(2014)
  • この記事を書いた人

田中 宏樹

After Reha代表の田中宏樹です。医療保険、介護保険分野のそれぞれで経験を積みながら、経営・マネジメントの勉強・情報発信も行っています。認定理学療法士(脳血管・運動器)/ ドイツ筋骨格医学会認定マニュアルセラピスト / PNFアドバンスコース(3B)修了 / FBL Klein-Vogelbach 1,2a+b修了 / 成人ボバースアプローチ基礎講習会修了 / 健康経営EXアドバイザー /企業経営アドバイザー/作業管理士

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