転倒をいつおこるかわからないため、注意のしようがないという方もいらっしゃいます。
でも実はそんなことはありません。
前回の記事でお伝えした、転倒リスクチェックのFRI(ファンクショナルチーチテスト:手がどれだけ遠くに伸ばせるかのテスト)利用して、運動能力から予測することができます。
しかし運動機能だけでなく、転倒を増加させる病気についても注意が必要です。
そこで今回は転倒にリスクに影響する病気について解説していきます。
転倒しやすくなる5つの病気+α
転倒しやすい病気5つと、そのほか注意が必要な病気も合わせてお伝えします。
認知症
健常な高齢者に対して転倒リスクが高いとされており、少なくとも2倍以上の差があるとされています。
(M E Tinetti:Risk Factors for Falls Among Elderly Persons Living in the Communityより)
加齢とともに足が上がらずにつまづいて転びやすくなったなどは、50〜60歳ごろから増加しますが、認知症の有無によっても危険性が高くなるのです。
また認知症を有する高齢者は転倒による骨折が多く、予後についても健常な高齢者に比べて悪いとされています。
(Magaziner J et al:Predictors of functional recovery one year following Hospital dischage for hip fractureより)
骨折しやすくなるだけでなく治療後の運動能力にも差が見られる点は要注意です。
病院で働いていた時も認知症のある方は内容の理解が難しいことが多いため、重度の認知症や人工関節に入れ替える手術を行った後は、思うようにリハビリが進まないことがありました。
認知症は日常生活においても徐々に支障を来してくるため、外出の機会も減り運動量低下に伴うバランス能力や筋力低下による影響も予後に関係していると考えられます。
脳梗塞・脳出血
(R.J. Davenport et al:Complications After Acute Strokeより)
とくに脳卒中患者の合併症としては一番、転倒の頻度が多いと言われています。
歩行障害やバランス機能の低下による影響や、半側空間無視といわれる左側を見落とす症状なども、転倒リスクを挙げる要因となっています。
実際病院に勤務していたころは、脳卒中の患者様が転倒すことは多くありましたが、車椅子への乗り移りやトイレの場面で多い印象です。
特に発症直後などは、カラダが動かない状態を十分脳が認識できていないこともあり、発症早期の段階は特に注意が必要です。
また活動量が増える”回復期”と言われる時期も同じく転倒が多い傾向があります。
糖尿病
高齢の糖尿病患者は、健常な人に比べて転倒しやすいと報告されています。
(荒木 厚ら 高齢者糖尿病における転倒、および転倒リスクの研究より)
その差は1.5~3倍との報告もあります。
これは、糖尿病による合併症の有無や、サルコペニア、バランス能力低下、機能低下(うつ、認知機能など)種々の要因を有しているからです。
肥満(メタボ)
実は肥満も転倒リスクに影響を及ぼします。
正確には病気ではありませんが、高齢者における肥満もしくはメタボリックシンドロームは日常生活に制限を来し、サルコぺニア、転倒と関連があるとされています。
特に、BMI(ボディマス指数)【BMI = 体重kg ÷ (身長m)2】が30以上になると転倒リスクが高くなるという報告が多いとされています。
肥満については動脈硬化や糖尿病とも関連してきますので、生活全般の見直しが必要になります。
メタボリックシンドロームについてはこちらの記事でも解説しています。
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サルコペニア
加齢に伴い、筋肉量の減少や筋力低下(サルコペニア)が認められ、日常生活に支障を来し要介護状態になるフレイルに陥る場合も少なくありません。
高齢者においてはサルコペニアの主症状である筋力低下が、転倒リスクを増大しています。
サルコペニアの診断手順としては以下の流れがあります。
サルコペニアを簡単にチェックする方法としては、ふくらはぎ周囲の長さを測る「指輪っかテスト」というものがあります。
製薬会社のエーザイさんの方でも簡単にチェックする方法がご紹介されていますので、そちらをご確認いただくのもよろしいかと思います。
その他
以下のような病気がある場合も転倒リスクが高くなるのでチェックが必要です。
- 視力障害(白内障、緑内障など)
- 内耳といわれる聴覚器官の障害(メニエール病、良性発作性頭位性眩暈症など)
- 排尿障害
- 栄養バランス
- 投薬状況 など
いずれにしても、転倒予防のためには運動能力を維持・向上させるだけでなく、病息にならないための予防も大切と言うことになります。
病気になって初めて健康の大切さに気付いたとされる患者さんを数多く見てきましたので、日々の生活習慣を見直すことはとても大切になります。
まとめ
繰り返しになりますが、転倒はいつ起こるかわかりません。散歩中や寝起きの際、ゴミ出しの際などいろいろな場面で起こります。
靴ではなくスリッパを履いていたなど、環境的な要因もありますが、今回お伝えした病気で転倒リスクが高まることもあります。該当する病気がある方は、病院で適切な治療を受けるなどして少しでも転倒リスクを軽減させましょう。
また病気がない方も、病気にならないための予防にしっかりと取り組むように心がけるようにしてください。