人手不足が叫ばれている中で、会社で働く従業員の仕事のパフォーマンスを上げる事は急務と言わざるを得ません。
どの業種も人手が足りないと言われていますが、特に医療介護・サービス業については今後も人手不足が続くと予想されており、早い段階から対策を行っておく必要があります。
その中で従業員が体調不良を抱えつつも仕事を行なっている状態「プレゼンティーイズム」による労働損失を把握する事は、健康問題による会社への損失額を把握する上で非常に重要になります。
今回は、従業員の健康状態における会社側への労働損失(労働生産性の損失額 )の考え方と計算方法について解説していきます。
労働損失額の計算方法
まず最初に従業員の体調不良が会社にもたらす「労働損失」を計算する方法からご紹介します。
労働損失の計算式
例を挙げると
- 従業員数:50人
- 従業員の平均年収:450万円
- プレゼンティーイズムの低下率;5%
この条件の会社の労働損失額は1,125万円となります。
決して小さな額ではありませんから、従業員が発揮できる能力を最大限引き出すようにしてできるだけ損失を抑えることが重要です。
プレゼンティーイズム低下率とは?
プレゼンティーイズムとアブセンティーイズム
プレゼンティーイズムの低下率をお伝えする前に、プレゼンティーイズムとアブセンティーイズムの違いを理解しておくことが必要になります。
まずそれぞれに違いを見ていきましょう。
プレゼンティーイズム
プレゼンティーイズムとは「健康の問題を抱えながらも仕事を行っている状態」を表す言葉です。
健康問題を抱えて仕事をしているということは、仕事の生産性が低下しているにも関わらず仕事に取り組んでいる状態とも言えます。
アブセンティーイズム
アブセンティーイズムとは、「健康問題を理由に仕事を休んでいる状態」を示す言葉です。
体調不良や心身不調が原因となって、病欠している状態になります。
アブセンティーイズムは欠勤日数や病欠者数など数値化しやすいため、把握することはそう難しくはありませんが、プレゼンティーイズムは従業員の主観に強く影響され可視化されにくいといった特徴があります。
プレゼンティーイズム低下率
プレゼンティーイズムの低下率は健康問題の理由によりどれだけ生産性が低下しているのかを数値化したものになります
プレゼンティーイズム低下率 =
最大のパフォーマンス (100%) - 現在のプレゼンティーイズム(○%)
厚生労働省保健局の「コラボヘルスガイドライン」では、プレゼンティーイズムによって従業員生産性が低下し、会社のコストが増大することが報告されています。
プレゼンティーイズム低下率を把握することは、会社にとっての損失コスト全体を把握するのに必要な項目であることはこの報告からも言えます。
なおプレゼンティーイズムを把握する方法としては SPQ(東大1項目版)が使いやすく、月に1回の頻度で計測するため日々変化するパフォーマンスを把握する上で有用です。
SPQ(東大1項目版)
プレゼンティーイズムの意味をそのまま反映したアンケートになります。
病気やケガがないときに発揮できる仕事の出来を100%としたときに、過去4週間の自分の仕事を評価します。
設問も1項目のため非常に簡単に行うことができます。
(測定頻度)月に1回
SPQ以外の測定方法としては以下のようなものがあります
1.WHO-HPQ
世界的に使用されている評価方法で「健康と労働に関する質問紙」を用いて3つの設問で評価します。
「絶対的プレゼンティーイズム」と「相対的プレゼンティーイズム」の2つの方法で表示されますが、日本人医は相対的プレゼンティーイズを用いることが妥当とされています。
(測定頻度)年に1回(月に1回)
2.WLQ
全 25 問の質問項目からなり4 つの尺度で構成されています。
・時間管理:5 問
・身体活動:6 問
・集中力・対人関係:9 問
・仕事の結果:5 問
(測定頻度)年に1回
3.Wfun
産業医科大学で開発された調査票で、7つの設問がありそれぞれの合計得点(7~35 点)で点数化します。
点数が高いほど労働機能障害の程度が大きいとされています。
(測定頻度)年に1回
4.QQmwthod
まず何らかの症状(健康問題)の有無を確認・把握して、4つの質問で状態を評価するものになります。
- 仕事にもっとも影響をもたらしている健康問題は何か
- この3か月間で何日間その症状があったか
- 症状がないときに比べ、症状があるときはどの程度の仕事量になるか(10段階評価)
- 症状がないときに比べ、症状があるときはどの程度の仕事の質になるか(10段階評価)
(測定頻度)年に1回
おわりに
経営者が従業員に対して抱く悩みの一つに「従業員の仕事に対する意欲が低い」というのがありますが、従業員の意欲が低いのには理由があります。
そこには仕事の要求度といった仕事の「質」や「量」も関係しています。
心や体のメンテナンスもプレゼンティーイズムにとっては大切ですが、仕事に対する動機づけを行うこともプレゼンティーイズムを解消するのに重要なことがわかってきています。
仕事へ満足度を高めるような取り組みも検討されると、会社の労働損失額も減少していくことでしょう。
参考文献
- 働く世代が抱える見過ごされている健康課題への対応の必要性.株式会社日本総合研究所
- Schaufeli, W. B., & Taris, T. W. (2014). A Critical Review of the Job Demands-Resources Model: Implications for Improving Work and Health. In G. F. Bauer & O. Hämmig (Eds.), Bridging Occupational, Organizational and Public Health: A Transdisciplinary Approach (pp. 43–68). Springer Netherlands.
- 仕事の要求度-資源モデル─ 研究蓄積の把握と今後の発展に向けて
- 健康投資管理会計ガイドライン
- 健康経営アドバイザー・エキスパートアドバイザー共通テキスト