「周りのお友達は楽しそうに跳んでいるのに、うちの子だけ縄跳びが苦手…」「手と足のタイミングが合わず、すぐに縄が引っかかってしまう」 「練習してもすぐに引っかかって、本人も自信をなくしているみたい…」
そんなお悩みはありませんか?縄跳びは、実は多くの子どもたちがつまずきやすい運動の一つです。しかし、その原因は単なる「不器用さ」や「運動神経」だけではないかもしれません。
実は、私たちの脳と体の成長には、「感覚統合」という機能と、誰にでも備わっていた「原始反射」という赤ちゃんの頃の動きが深く関わっています。
この記事では、なぜ縄跳びが難しいのかをこれらの視点や脳科学の観点から紐解き、焦らずに取り組める土台作りの遊びをご紹介します。この記事を読めば、お子さんの「今」を理解し、応援するための新しいヒントがきっと見つかります。
この記事では、小児発達の専門家である理学療法士が、感覚統合と脳科学の視点から「縄跳びが難しい理由」を紐解き、ご家庭や園で楽しく取り組める3ステップの支援方法をご紹介します。この記事を読み終える頃には、お子さんへの新しい関わり方のヒントが見つかるはずです。
縄跳びが難しい2つの理由:感覚統合と原始反射
縄跳びという運動は、私たちが思う以上に、脳の中でたくさんの仕事を同時にこなす必要があります。その難しさの背景にある、2つの大きな要因を見ていきましょう。
1.縄跳びと「感覚統合」のふかい関係
縄跳びは、ただジャンプするだけの単純な運動に見えて、実は脳の中で非常に高度な情報処理を必要とします。これを「感覚統合」の視点から見てみましょう。
感覚統合とは、体中から集めた様々な感覚情報を、脳が整理整頓し、状況に合わせて体を動かすための指令を出す力のことです。
縄跳びが上手にできるためには、主に3つの感覚がチームのように働く必要があります。
固有感覚(こゆうかんかく)
筋肉や関節から伝わる「体の動きや力加減」を感じるセンサーです。
これが働くと、私たちは目で見なくても自分の手足がどこにあって、どれくらいの力で動いているかを把握できます。
縄を回す腕の力加減や、ジャンプする足の強さを調整するために不可欠です。
前庭感覚(ぜんていかんかく)
耳の奥にある三半規管で感じる「体の傾き・スピード・回転」のセンサーです。
バランス感覚の土台であり、連続してジャンプする時の姿勢の安定や、リズミカルな動きを支えています。
視覚と運動の協応
回ってくる縄を目で追いかけ、そのスピードと位置に合わせて「今だ!」というタイミングでジャンプする力です。
これは、目から入った情報と体の動きを脳が瞬時に連携させる高度なスキルです。
これらの感覚情報が脳の中でうまく統合されて、初めてリズミカルな縄跳びが可能になります。
つまり、縄跳びが苦手なお子さんは、これらの感覚の土台がまだ育ちの途中なのかもしれないのです。
視覚の機能についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
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【感覚】単に見るだけではない!視覚の重要な機能について考えてみよう
私たちが日々当たり前のように行っている「見る」という行為。実は単に周りの情報を捉えるだけでなく、私たちの学習、コミュニケーション、そして行動にまで深く関わっている、とても複雑で重要な機能なのです。 & ...
2. 体に残る“赤ちゃんのクセ”、「原始反射」
さらに、もう一つの重要な視点が「原始反射」です。これは、赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいる時から持っている、無意識の自動的な動きです。
例えば、口に触れたものに吸い付いたり、大きな音にビクッと両手を広げたりする動きがそれにあたります。
これらの反射は、赤ちゃんが生き延び、成長していくために不可欠なものですが、通常は脳が発達するにつれて、より高度で意識的な動きへと統合され、目立たなくなっていきます。
しかし、この原始反射が学童期になっても体に強く残っていると、本人の意思とは関係なく特定の動きを誘発してしまい、縄跳びのような複雑な運動の妨げになることがあるのです。
【縄跳びを邪魔しやすい原始反射の例】
非対称性緊張性頸反射(ATNR)
顔を向けた方の手足が伸び、反対側が曲がる反射。縄を目で追って顔を動かすたびに、腕の動きがぎこちなくなってしまう原因に。
対称性緊張性頸反射(STNR)
頭を下げると腕が曲がり、上げると腕が伸びる反射。足元を見ようとすると腕が曲がって縄を回せなくなったり、前を向くと体が反ってしまったりする原因に。
つまり、お子さんは無意識の体の反応に邪魔をされながら、一生懸命縄跳びの練習を頑張っているのかもしれないのです
「跳ぶ」前に整えたい!体と脳の土台を作る準備遊び
いきなり縄跳びの練習を繰り返すのではなく、まずは感覚統合を促し、原始反射の統合を助ける「準備遊び」で、体の土台をしっかりと固めていきましょう。
ステップ1:固有感覚と原始反射の統合
自分の体を思い通りに動かすための基礎を作ります。
動物ものまね歩き
「クマさん歩き(四つ這い)」や「カニさん歩き(横歩き)」をしてみましょう。特に四つ這いの動きは、手足の協調性を高め、STNR(対称性緊張性頸反射)の統合を促すのに非常に効果的です。
ゴロゴロ転がり
布団の上などで、丸太のように横にゴロゴロと転がります。全身の筋肉を使い、体の軸を感じるこの動きは、バランス感覚を養い、ATNR(非対称性緊張性頸反射)の統合にも繋がります。
ステップ2:揺れとリズムを楽しもう!(前庭感覚の活性化)
バランス感覚とリズミカルな動きの基礎を養います。
シーツブランコ
大人が2人でシーツの両端を持ち、お子さんを乗せて優しく揺らします。前後左右、様々な方向への揺れは、バランスを司る前庭感覚を心地よく刺激します。
音楽でストップ&ゴー
好きな音楽に合わせて自由にジャンプし、音楽が止まったらピタッと静止!「動」と「静」の切り替えは、自分の体をコントロールする力を高めます。
ステップ3:見る力と動く力を繋げよう!(視覚と運動の協応)
目と体のスムーズな連携を引き出します。
風船バレー
風船をポンポンと打ち合います。ゆっくり動く風船は、目で追いながら手足を動かす絶好のトレーニングになります。何回続くか数えながら行うと、さらに盛り上がります。
長縄ヘビさんジャンプ
大人が縄を床でニョロニョロと動かし、お子さんはそれを踏まないようにジャンプ!縄への恐怖心をなくし、タイミングを合わせる練習になります。
まとめ
縄跳びができないのは、お子さんの努力不足ではありません。多くの場合、感覚という体の土台が、まだ準備中なだけなのです。
今回ご紹介した遊びは、どれも特別な道具がなくても始められるものばかりです。
大切なのは、「練習」と気負わずに、親子で楽しみながら体を動かすこと。遊びの中で育まれた感覚は、縄跳びだけでなく、かけっこやボール遊び、さらには学習面での集中力にも繋がっていきます。
焦らず、お子さん一人ひとりのペースを大切に。「できた!」の瞬間を一緒に喜び、自信を育んでいきましょう。
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参考文献
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- Bundy AC, Lane SJ, Murray EA. Sensory Integration: Theory and Practice. 4th ed. F.A. Davis; 2021.