【理学療法士解説】自転車に乗れない原因は「バランス感覚」だけじゃない!簡単遊びで自信を育むコツ

「周りのお友達はスイスイ乗っているのに、うちの子だけ何度も転んでしまう…」 「ペダルをこぐと、すぐにハンドルがぐらついて目が離せない」「もうやりたくない!」と泣き出す我が子。

 

親としてどうすればいいか分からなくなってしまいますよね。

 

これまで多くの「自転車が苦手」なお子さんたちと関わってきましたが、うまく乗れないのは、決して運動神経だけの問題ではありません。

 

その背景には、体のバランスをとったり、手足をスムーズに動かしたりするための「感覚」の育ちが深く関係しています。

 

この記事では、なぜ自転車が難しいのかを「3つの感覚」の視点からやさしく解き明かし、ご家庭で今日からできる簡単な遊びを通して、自転車に乗るための土台を育てる方法をご紹介します。

 

◆ なぜ自転車は難しい?つまずきの裏にある3つの「感覚」

自転車を乗りこなすためには、実はたくさんの感覚を同時に使い、脳がそれらを瞬時にまとめ上げるという、非常に高度な処理が行われています。

 

お子さんのつまずきの裏には、主に次の3つの感覚の土台が関係しているかもしれません。

 

1. バランス感覚のアンテナ:「前庭感覚」

 

これは、体の傾きやスピード、回転を感じ取るセンサーのこと。耳の奥にあって、「体のアンテナ」のように働き、自転車が傾いたときに「おっと危ない!」と瞬時に体を立て直す役割を担っています。

 

このアンテナの感度が未熟だと、少しの傾きでも大きくふらついてしまいます。

 

こんな様子ありませんか?

  • ブランコやシーソー、高いところを極端に怖がる
  • 逆に、くるくる回ったり、激しく揺れたりする遊びが大好き
  • ちょっとした段差でつまずきやすい

 

2. “体の脳内ナビ”:「固有受容覚」

 

なんだか難しい名前ですが、これは筋肉や関節にあって、自分の手足がどこにあって、どれくらいの力が入っているかを感じ取るセンサーです。

 

この感覚のおかげで、脳の中に「自分の体の地図(ボディイメージ)」が描かれ、私たちはペダルを見なくてもスムーズに足を乗せたり、適切な力でこいだりできます。

 

この「脳内ナビ」がしっかりしていることが、なめらかな運転の秘訣です。

こんな様子ありませんか?

  • 力の加減が苦手で、おもちゃを壊したり、お友達を強く叩いてしまったりすることがある
  • わざとドスンと座ったり、壁に体をぶつけたりする
  • ぎゅーっと抱きしめられるのが好き

 

3. 動きのチームワーク:「協調運動」

自転車は「前を見る」「ハンドルを操作する」「ペダルを交互にこぐ」「バランスをとる」といった複数の動きを同時に行う必要があります。

 

これらバラバラの動きを、うまくまとめ上げ、滑らかな一連の動作にするのが協調運動の力です。

 

この指揮者の働きが未熟だと、動きがぎこちなくなり、「ペダルをこぐとハンドルがぶれる」といったことが起こります。

 

これらの感覚からの情報を脳が上手に整理し、まとめる働きを「感覚統合」と呼びます。自転車は、まさにこの感覚統合の力が試される活動なのです。

 

自転車につながる“感覚そだて”遊び3選

いきなり自転車に乗るのではなく、まずは遊びを通して、先ほどお話しした3つの感覚の土台を育ててあげましょう。

 

親子で楽しく取り組める簡単な遊びをご紹介します。

 

【遊び1:床の線路を歩こう!】でバランス感覚を育てよう!

床にビニールテープなどで直線やゆるやかなカーブの「線路」を引きます。「ガタンゴトン、電車が出発しまーす!線路から落ちないように進めるかな?」と声をかけ、線の上を落ちないように歩いてみましょう。

 

腕を広げてバランスを取ったり、少し速く歩いたり、後ろ向きに挑戦したりするのも良いですね。

 

この遊びは、体が傾いたときに足や体幹で微調整する練習になり、「前庭感覚(バランス感覚のアンテナ)」を自然と鍛えてくれます。

 

【遊び2:手押し相撲】で体の地図を育てよう!

親子で向かい合って立ち(もしくはお膝を立てて座り)、手のひらを合わせます。「はっけよーい、のこった!」の合図で、お互いに「うーん!」と押し合いっこをしましょう。

 

腕や足、お腹にぐっと力が入ることで、筋肉や関節から脳へ「今、体に力が入っているよ!」という強い信号が送られます。

 

これが「固有感覚(体の脳内ナビ)」をくっきりとさせ、ペダルを漕ぐ力加減や、ハンドルを支える腕の力を調節する土台になります。

 

 

【遊び3:シャボン玉を追いかけよう!】で動きのチームワークを育てよう!

公園やお庭でシャボン玉をたくさん飛ばし、お子さんに手でパチンと割ってもらったり、足で踏んづけてもらったりしましょう。

 

フワフワと予測不能な動きをするシャボン玉を目で追いかけ、タイミングを合わせて手や足を動かすことは、目と体の動きを連携させるにはとてもいいトレーニングです。

 

これは、前を見ながらハンドルを操作し、ペダルを漕ぐという「協調運動(動きのチームワーク)」の能力を高めるのに役立ちます。

 

それぞれの感覚についてはこちらの記事でも解説しているので、ぜひ参考に覗いてみてください。

参考
【カラダの不思議】感覚について知ろう!"感覚”と"運動”の密接な関係

私たちが日常生活を送る際は、ただ単に動作を行なっているのではなく感覚の情報をもとに運動しています。   感覚と運動は常に表裏一体の関係にあるのです。   今回はそんな感覚について、 ...

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 まとめ

お子さんが自転車に乗れないとき、私たちはつい「練習が足りないからだ」と考えがちです。しかし、その根本には「感覚の育ち」という大切な土台が隠れているかもしれません。

 

今回ご紹介した3つのポイントを思い出してください。

  • バランス感覚のアンテナ:揺れ遊びで、傾きに対応する力を育てる。
  • 体の脳内ナビ:動物まねなどで、自分の体を意識する力を高める。
  • 動きのオーケストラ:風船遊びなどで、目と手足の連携をスムーズにする。

大切なのは、焦らず、叱らず、日々の遊びの中にこれらの要素を取り入れることです。

 

「できた!」という小さな成功体験は、お子さんの自己肯定感を育み、次の挑戦への意欲につながります。

 

とはいえ、 「うちの子の特性に合わせて、もっと具体的にどんな遊びをすれば?」 「すごく怖がりな子には、どうやって声をかけたらいい?」 「ペダルを外すって聞いたけど、その後のステップが分からない…」

 

そんな、明日からすぐに使える具体的な自転車の練習ステップや、一人ひとりの特性に合わせた関わりの深い話、そして専門家が選んだ「感覚遊びレシピ10選」や印刷して使える「自転車チャレンジ・チェックシート」については、私のnoteで詳しくお話ししています。

 

保育や子育てがもっと楽しく、確かなものになるヒントが詰まっていますので、ぜひ覗いてみてくださいね。

 

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