子育てをする中で、「自己肯定感を高めることが大切だ」という言葉を耳にする機会は多いでしょう。しかし、これとよく似た言葉に「自己効力感」というものがあります。
この2つは、子どもの成長において非常に重要な心の要素ですが、その意味するところは大きく異なります。
本記事では、科学的根拠に基づき、自己肯定感と自己効力感の違いを明確に解説します。さらに、なぜ子どもの成長において自己効力感よりも自己肯定感の方が重要であるのか、その理由についても複数の研究論文を引用しながら深く掘り下げていきます。
自己肯定感と自己効力感のと違い
まずは「自己肯定感」と「自己効力感」それぞれの言葉について確認して見てみましょう。
自己肯定感(Self-Esteem)
自己肯定感とは、ありのままの自分を受け入れ、自分の存在そのものに価値があると感じる心の状態を指します。
これは特定の能力や成果に左右されるものではありません。たとえ失敗したり、苦手なことがあったりしても、「それでも自分は大切な存在だ」と思える感覚です。
自己肯定感が高い子どもは、失敗を恐れずに新しいことに挑戦したり、他者からの評価に過度に左右されずに自分らしくいることができます。
自己効力感(Self-Efficacy)
一方、自己効力感は、特定の課題や状況において、「自分ならできる」「やり遂げられる」という行動を起こす自信を指します。
これは心理学者のアルバート・バンデューラが提唱した概念です。
自己効力感は、特定の目標達成に向けた能力やスキルに対する確信であり、具体的な成功体験によって育まれます。
項目 | 自己肯定感(Self-Esteem) | 自己効力感(Self-Efficacy) |
定義 | ありのままの自分を受け入れる心の状態 | 特定の課題を「できる」と信じる自信 |
焦点 | 自分自身の存在価値そのもの | 特定の行動や能力 |
評価基準 | 失敗や成功に関わらない | 成功体験や達成度合い |
効果 | 失敗を恐れず挑戦する心の土台 | 目標達成に向けた行動の原動力 |
この2つの決定的な違いは「できない自分」や「失敗」をどう捉えるかにあります。
自己肯定感が高い場合
「今回のテストはうまくいかなかったけど、一生懸命頑張った自分は偉いし、次も頑張ればいい」と、結果がどうであれ、努力した自分自身を認め、次の挑戦へと気持ちを切り替えることができます。
自己効力感が高い場合
「この問題は絶対に解けるはずだ」という確信のもと、課題に意欲的に取り組みます。しかし、もし失敗した場合、自己効力感が低下し、「やはり自分にはできない」と自信を失ってしまうリスクがあります。
「自己肯定感」が自己効力感よりも重要である理由
自己効力感は、目標達成に向けて行動する上で非常に強力な推進力となります。
しかし子どもの心の成長を長期的に見た場合、自己肯定感こそが、より根本的で、揺るぎない心の土台を築く上で不可欠であると、多くの研究が示唆しています。
その理由は以下の3つになります。
① 失敗を恐れず、挑戦し続ける心の土台となる
自己肯定感は、失敗や挫折をしても、自分の存在価値が揺らぐことがないという安心感を与えます。
失敗は誰にでも起こり得ることであり、それは自分の価値とは無関係であると理解できるため、子どもは萎縮することなく、再び立ち上がって挑戦する勇気を持つことができます。
一方、自己効力感だけが高い状態では、一度大きな失敗を経験すると、「自分はできない人間だ」という思い込みに陥り、自信を喪失してしまう危険性があります。
成功体験が自己効力感を高めますが、失敗体験は自己効力感を大きく低下させる可能性があるのです。
② 自己肯定感は他者との健全な関係性を築く
自己肯定感が高い子どもは、他者からの評価に一喜一憂することが少なく、自分自身の感情や価値観を大切にすることができます。
これにより他者と自分を比較して劣等感を抱いたり、過度に競争したりするのではなく、健全な人間関係を築くことができます。
諸富祥彦らの研究では、自己肯定感が高い子どもは、共感力が高く、他者との協調性を保ちながらも、自分の意見を適切に表現できることが示唆されています。
また西村則子の論文では、自己肯定感は学校での適応や対人関係の満足度と正の相関があることが示されています。
自己効力感は、あくまで「自分が何かを達成する能力」に焦点を当てているため、人間関係の構築には直接的に結びつかない場合があります。
特定の能力に自信があっても、他者との関わりの中で孤立感を感じる子どももいるでしょう。
③ 自己肯定感は「幸福感」の源泉となる
最終的に私たちが子どもに望むのは、成功や達成だけでなく、人生を豊かに生きるための「幸福感」ではないでしょうか。
自己肯定感は、成功や成果の有無にかかわらず、自分自身に満足し、幸せを感じる力です。これは特定の目標を達成した時に得られる一時的な達成感や満足感(自己効力感から来るもの)とは異なります。
ありのままの自分を受け入れられることで、子どもは日々の生活の中で小さな幸せを見つけ、心の安定を保つことができます。
山下淳子の研究では、自己肯定感の高さが、抑うつ傾向の低さや生活満足度、幸福感と強い関連があることが報告されています。
子どもの自己肯定感を育む具体的な方法
では、子どもの自己肯定感を育むためには、具体的にどのような関わり方をすれば良いのでしょうか。
① 無条件の愛を伝える
子どもが何かを「できた」時だけでなく、何もしていなくても、ただそこにいるだけで「あなたは大切な存在だ」ということを伝えましょう。
- 「大好きだよ」「生まれてきてくれてありがとう」
- 抱きしめる、頭をなでるなど、身体的なスキンシップを大切にする
② 過程を褒める・認める
結果がどうであれ、子どもが頑張った過程や努力に焦点を当てて褒めましょう。
- 「テストの点は残念だったけど、毎日一生懸命勉強していた姿はとても素敵だったよ」
- 「逆上がりができなくても、何度も諦めずに挑戦したのがすごいね」
③ 存在を尊重する
子どもの意見や感情を尊重し、「あなたの気持ちを大切にしているよ」というメッセージを伝えましょう。
- 「〇〇ちゃんはどう思う?」と意見を求める
- 「嫌だったね」「悲しかったね」と子どもの感情に共感する
4. 自己肯定感と自己効力感の理想的なバランス
ここまで自己肯定感の重要性を強調してきましたが、自己効力感が全く必要ないというわけではありません。
自己肯定感という揺るぎない土台の上に、自己効力感という挑戦する力を築いていくことが、子どもの健全な成長にとって最も理想的です。
自己肯定感が高い子どもは、新しいことに挑戦する際に「失敗しても大丈夫」という安心感を持っています。その上で、小さな成功体験を積み重ねることで、「やればできる」という自己効力感を育むことができます。
- 自己肯定感(心の土台):「ありのままの自分は大切」という安心感
- 自己効力感(行動の推進力):「この課題なら自分はできる」という自信
この2つがバランスよく育まれることで、子どもは失敗を恐れずに挑戦し、たとえ失敗しても自分を責めずに立ち直り、新たな目標に向かって再び歩み始めることができるようになるのです。
5. まとめ
自己肯定感と自己効力感は、どちらも子どもの成長に不可欠な心の要素ですが、その役割は異なります。
- 自己効力感:特定の課題を達成する自信であり、行動の推進力
- 自己肯定感:ありのままの自分を受け入れる心の土台であり、失敗から立ち直る力
そして、この2つのうち、より根本的で、子どもの心の安定や長期的な幸福感に深く関わるのが自己肯定感です。成功や成果に左右されない心の土台があるからこそ、子どもは失敗を恐れずに挑戦し、真の自信を育むことができます。
子育ての中で、結果だけでなく、子どもの存在そのものを認め、努力の過程を褒めることを意識することで、子どもの心の奥深くに自己肯定感という一生涯の宝物を植え付けることができるでしょう。
参考文献
- 諸富祥彦 (2011). 「自己肯定感」と「自己効力感」の子ども心理学. 総合教育技術, 72(5), 44-47.
- 西村則子 (2017). 中高生の自己肯定感・自己効力感と学校適応・対人関係の関連. 教育心理学研究, 65(3), 329-338.
- 山下淳子 (2020). 大学生の自己肯定感と心理的幸福感の関連性に関する研究. 日本教育工学会論文誌, 43(3), 297-306.
- President Online (2023). 「自己肯定感」と「自己効力感」の違いを知らない人が、わが子の人生を壊す.
- President Online (2023). 「自己肯定感」と「自己効力感」はなぜ混同されるのか.
- 西村, 薫ら:自己効力感に関する研究の展望と今後の課題 : 展望的自己効力感の提唱.九州大学学術情報リポジトリ
自己肯定感や自己効力感は「発達障がい」とも関連していると言われています。こちらの記事では発達障がいに関する記事を掲載していますので、合わせてご覧ください。
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