【特性のある子供にも】音楽の力で発達を促す!保育現場における音楽の可能性

音楽は単なる娯楽を超えて、人間の心身に多大な影響を与えることが科学的に証明されています。

 

特に発達段階にある子どもたちにとって、音楽は心身の発達を促す上で非常に重要な役割を果たします。

 

この記事では音楽が子どもの発達、特に発達障害や発達に特性のある子どもたちに対してどのような効果をもたらすのか、そして保育現場で音楽をどのように活用できるのかについて、具体的な事例を交えながら解説します。

 

音楽が脳に与える影響

音楽は、脳の様々な領域を同時に活性化させるともて有用なツールです。

 

人が音楽を聴いたり、演奏したりすることで脳の神経回路が強化され、新たなシナプス(神経の繋がり)が形成されます。

 

特に音の「高い低い」や「リズム」の処理は脳の異なる部分で行われるため、音楽は脳の広範囲に働きかけ、認知機能・情動・運動機能などの発達を促します。

 

音楽の効果

  • 認知機能の向上

注意力、記憶力、実行機能の改善、言語や数学の能力向上

  • 情動調整と社会性の発達

感情の表現や理解を促し、自己肯定感や共感性を育む

  • 運動機能の向上

リズム感や協調運動能力の向上、感覚統合の促進

  • 言語発達の促進

歌唱活動は発声・発語の促進、語彙の拡大、言語と運動の統合を促す

 

 

これらの効果が研究によって認められているため、音楽は発達障害や発達に特性のある子どもたちに対しても多様な効果をもたらすことが期待されています。

 

なお厚生労働省のeJIMにおいても音楽と健康についての記載があり、こちらでも科学的根拠が増えつつあると述べられています。

 

音楽の具体的な効果

 

①社会性の向上

音楽を通したは子どもたちの社会性を育むのに効果的です。特にグループでの音楽活動は社会性の発達を促進し、他社とのコミュニケーション能力を向上させます。

 

他者の存在認識

自閉症児や発達が遅れている子どもたちは、他者との境界線があいまいになりがちです。

 

音楽を通した遊びは子どもが好む音楽を使用することで、他の存在を意識する感覚が育ちます。

 

コミュニケーション能力の向上

音楽を通じて感情や意図を伝える経験は、非言語的なコミュニケーション能力を向上させます。

 

集団での音楽活動を通じて、自然とコミュニケーション能力が育成されます。

 

社会性の育成

集団での楽器演奏や合唱は順番を待つ、他の参加者と音を合わせる必要があり、自然と協調性が養われるため社会性を高めることができます。

    ②認知機能の向上

    音楽は認知機能の向上に寄与することが示されています。特に以下機能の改善が報告されています。

     

    向上する認知機能

    • 注意力
    • 記憶力
    • 創造性
    • 言語能力

     

    これは音楽が脳の様々な部位が同時に刺激することや、長期記憶を刺激して回想させたり、歌詞を覚えることが記憶力の向上のトレーニングになっているからです。

     

    またリズムと言語の習得には強い関連性があり、言語能力の向上にも寄与することが報告されています。

     

    例えば音楽の訓練を受けた子どもは、言語や数学の能力が向上するという研究結果がり、知的能力の向上することが分かっています。

     

    感覚統合と運動機能の発達

    音楽と感覚

    音楽は子どもたちが感覚をうまく使えるようにするための能力を高めます。

     

    音楽あそびは聴覚、視覚、触覚、固有受容感覚(筋肉や関節の伸びや動きを感知する感覚)など複数の感覚を同時に刺激します。

     

    音楽と運動

    音楽によって脳の多領域を活性化させることでそれぞれの感覚同士を連携させる(統合)ことがわかっているので、感覚あそびの側面も持っています。

     

    また音楽に合わせてダンスをしたり、音楽を聴きながら演奏する、リズムに合わせて振り付けをするなどの活動を行うことで、運動機能も合わせて伸ばすことができます。

     

    情緒の安定

    音楽は子どもたちの情緒の安定にもつながることが分かっています。それには以下の3つが関係しています。

     

    • ストレス軽減効果
    • オキシトシンによる安定
    • ドーパミンによる安定

     

    ストレス軽減効果

    音楽はストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を抑制することが知られており、これは大人も体感できる効果だと思います。

     

    リラックスした音楽を聴くことで気持ちが落ち着いたり、逆に子どもたちが音楽あそびでカラダを動かすことでもストレスホルモンのコルチゾールは低下します。

     

    オキシトシンによる安定

    オキシトシンは「愛情ホルモン」や「絆ホルモン」とも呼ばれ、社会的な結びつきや信頼関係の形成に重要な役割を果たすホルモンです

     

    このオキシトシンは集団で歌を歌うことで分泌量が増加し、自己報告した幸福感も向上したことがG Kreutzらの研究によってわかっています。

     

    ドーパミンによる安定

    好きな音楽を聴くことで脳の報酬系(欲求が満たされる、あるいは満たされそうになった時に活性化して快感をもたらす神経)が活性化し、ドーパミンが放出されることが示されました。

     

    これにより音楽あそびが子どもたちに快感や喜びをもたらし、情緒の安定につながると考えられています。

     

    発達障がいへの音楽の効果

    ASDの子ども達やADHDの子ども達に対する、音楽の可能性については多くの研究が行われています。

     

    自閉症スペクトラム障害(ASD)

    社会性の促進

    音楽は非言語的なコミュニケーション手段として機能し、金子らの研究では、音楽療法がASD児の対人関係スキルを向上させることが示されています。

     

    これによりASDの子どもたちの社会的相互作用をもたらします。

     

    感覚統合の改善

    Geretseggerらのメタ分析(科学的根拠の高い研究方法)では音楽療法がASD児の感覚処理能力を改善することが報告されています。

     

    子どもたちに時折みられる感覚過敏や感覚処理の困難に対して、音楽は感覚統合を促進する効果が期待できます。

     

    常同行動の減少

    リズミカルな音楽活動は子どもたちの注意力と集中力を向上させ、常同行動(外から見ると意図がわからない、繰り返しおこなわれる行動)を減少させる効果がBosoの研究で示されています。

     

    注意欠如・多動性障害(ADHD)

    注意力と集中力の向上

    音楽の特にリズミカルな活動は、ADHD児童の注意力と集中力を向上させることが分かっています。

     

    山下らの研究では音楽あそびがADHD児の持続的な注意力を改善することが報告されていますので、「周りが気になる」「集中できない」子どもたちには音楽活動が有効な介入手段となります。

     

    またリズミカルな音楽活動は、運動制御と注意力の向上に寄与し、学習環境での集中力を高めることが示されています。

     

    衝動性のコントロール

    音楽あそび、ADHD児の衝動性をコントロールする効果があります。

     

    Rickson の研究では、ドラムを使った音楽療法がADHD児童の衝動性を軽減することが示されました。これはカラダを動かしながらの音楽活動が功を奏しているのだと思います。

     

     

    ADHDの子どもたちにとって、音楽は注意力と衝動性のコントロールを助ける効果的なツールとなります。

     

    うちの子やこの子発達障害かも?と思ったら、こちらの記事も音楽以外で大人が支援するうえで参考になるかと思います。

    参考
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    保育現場での音楽の活用

    保育園や幼稚園で日々の保育活動に音楽を取り入れることで、定型発達の子ども達だけでなく、発達障がいや特性のある子どもたちの成長を支援することができるため、ぜひ日常的に音楽に触れる活動をしてほしいと思います。

     

    日常的な音楽活動の導入

    日頃の保育の中で導入しやすい方法を3つご紹介します。

    • 朝の会での歌

    朝の会の一日の始まりで集団で簡単な歌を歌うことで、子どもたちの気持ちを切り替えさせ、注意力、集中力、社会性を身につけてもらいます。

    • 遊びの中での音楽

    自由あそびの時間に楽器コーナーを設けることで、子どもたちの自発的な音楽体験を促すことができ、カラダを動かしてリズムを奏でることで協調的なカラダの使い方にも繋がります。

    • 移動時の音楽

    活動の切り替え時に短い音楽を流すことで子どもたちの注意を喚起し、スムーズな移動を促すことが期待できます。

     

    音楽を活用した特別活動

    合奏発表会

    子どもたちがそれぞれ楽器を担当し、協力して1つの曲を演奏するイベントを園の発表会で行うことで、リズム感や協調性を養うことができます。

     

    楽器の選定では自身で選択したものに対して責任を持つようになり、練習も必要となるため積み重ね大切さを学ぶことにも繋がります。

     

    音楽劇・コンサートの鑑賞

    地域で音楽活動を行っているグループを招待して保育園内でコンサートを開催する形式です。

     

    子どもたちがプロの演奏を間近で体験できる貴重な機会となり、保護者も一緒に参加することで家族で楽しむイベントにすることも可能です。

     

    地域住民と連携した音楽祭

    敬老会などの地域での行事で子どもたちが音楽発表をすることで、子どもたちがいろいろな大人と交友することができ、保育園の知名度アップにも繋がります。

     

    また地元の小学校や中学校の音楽部や合唱団と連携し、子どもたちが演奏するステージを設けることで、地域の教育機関とのつながりを深めることができます。

     

    音楽活動を実施する際の注意点

    音楽活動は単に取り入れればいいと言うわけではなく、実施する際に注意や理解しておくべき点もあります。

     

    • 個別性の尊重

    子どもによって音楽の好みや反応が異なるため、個々の特性に合わせた活動を心がけましょう。

    • 段階的な導入

    特に音に敏感な子どもには、徐々に音楽を導入し、無理なく慣れていけるよう配慮しましょう。

    • 多様な音楽の活用

    クラシック、童謡、ポップスなど、様々なジャンルの音楽を取り入れ、子どもたちの興味を広げましょう。

    • 継続的な観察

    音楽活動による子どもたちの変化を細かく観察し記録することで、より効果的な支援につなげることができます。

     

    まとめ

    音楽は発達障がいや発達に特性のある子どもたちの認知、情動、社会性、運動能力の発達にも効果的なツールです。

     

    脳の広範囲を活性化させる音楽の特性を活かし、子どもたちの個別のニーズに合わせた音楽活動を提供することでより効果的な支援が可能となります。

     

    日々の保育活動に音楽を積極的に取り入れ、子どもたちの発達を多角的に支援していただくことで、子どもたちの潜在能力を引き出し豊かな発達を促進することができるでしょう。

     

     

    参考

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