【実行機能】「つい言っちゃう…」が止まらない。保育で活かせる発達支援と脳科学の優しいお話

「良かれと思って言った一言が、お友達を傷つけてしまった…」 「思ったことをすぐに口にしてしまって、クラスの輪を乱してしまうことがある…」

 

保育園やご家庭で、そんなお子さんの姿に胸を痛めたり、どう関われば良いのか悩んだりした経験はありませんか?

 

「どうしてそんなことを言うの!」とつい叱ってしまった後で、お子さんのしょんぼりした顔を見て、自己嫌悪に陥ってしまう…なんてこともあるかもしれませんね。

 

でも、もしその「つい言っちゃう」行動が、本人のわがままや意地悪ではなく、脳の働きや、私たちが普段あまり意識していない「感覚」の特性が関係しているとしたら、少し見方が変わりませんか?

 

今回は言葉のブレーキが少し苦手なお子さんの心と体の世界を、脳科学と感覚統合の視点から、皆さんと一緒に優しく探検してみたいと思います。

 

衝動性の背景にある「実行機能」とは?

私たちが何かを考え、行動を計画し、自分をコントロールする。この一連の高度な脳の働きを実行機能(Executive Functions)と呼びます。

 

実行機能は、脳の「司令塔」とも言われる前頭前野が中心となって働く力で、主に3つの要素で構成されています。

  1. 抑制制御(ブレーキ):衝動的な行動や感情を抑える力。
  2. ワーキングメモリ(メモ帳):情報を一時的に記憶し、作業に使う力。
  3. 認知の柔軟性(切り替え):状況に合わせて考えや行動を切り替える力。

「つい言ってしまう」のは、この中の「抑制制御」、つまり脳のブレーキ機能がうまく働いていない状態です。

 

悪気があるわけではなく、言いたい気持ちをグッとこらえる脳の回路が、まだ育ちきっていないのです。

 

ワーキングメモリについてはこちらの記事でも詳しく解説しています。

参考
集中力・思考力のカギはこれ!子どもの発達を支えるワーキングメモリの仕組みを専門家が徹底解説

「さっき言ったばかりなのに、もう忘れてる…」 「お片付けの途中で、違う遊びを始めてしまう」 「忘れ物が多くて、毎朝ガミガミ言ってしまう」子育てをしていると、こうした悩みにぶつかることはありませんか? ...

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体の使い方が、心の”ブレーキ”の土台になる理由

そしてもう一つ、心のブレーキと深く関係しているのが「感覚統合」という考え方です。 少し専門的な言葉ですが、難しくありませんよ。

 

突然ですが、ちょっと試してみていただけますか?

チェック

「目を閉じて、ご自身の右手の親指で、左手の小指を触ってみてください。」

 

…どうでしょう?多くの方が、簡単そうで意外と難しい、あるいは少し時間がかかったのではないでしょうか。

 

私たちは、目で見なくても自分の体がどこにあって、どう動いているのかを感じるセンサーを持っています。これを「固有受容覚(こゆうじゅようかく)」と言います。いわば、「自分の体の地図」を作る感覚です。

 

またブランコに乗った時の揺れや、滑り台を滑る時のスピードを感じる「前庭感覚(ぜんていかんかく)」という、「バランス感覚のアンテナ」も持っています。

 

これらの感覚がしっかり育っていると、自分の体の軸が安定し、姿勢を保ちやすくなります。そして、体の軸がしっかりすると、不思議なことに、心の軸も安定しやすくなるんです。

 

自分の体がどこにあるのか、その輪郭がはっきりしている子は、心の輪郭もはっきりして、落ち着いて行動しやすくなる、そんなイメージです。

 

逆に、この体の地図が少し曖昧だったり、アンテナの感度が良すぎたり、あるいは鈍すぎたりすると、なんだかソワソワして落ち着かず、その結果として衝動的な言葉がポロッと出てしまうことがあるんですね。

 

明日からできる!衝動性を抑える遊びのヒント

難しく考える必要はありません。日常の遊びに少しだけ「待つ」「我慢する」要素を加えるだけで、立派な脳トレになります。

 

だるまさんがころんだ

  • 鬼が振り向く瞬間に「ピタッ!」と動きを止める。これは、衝動的に動きたい気持ちを抑える、抑制制御の典型的なトレーニングです。

 

後出しジャンケン

  • 「勝ってください」「負けてください」という指示に合わせて、相手の手を見てから自分の手を出すゲーム。とっさに出したい手を我慢し、一瞬考えてから手を出すプロセスが、脳のブレーキを鍛えます。

 

命令ゲーム(サイモンセッズ)

  • 「“サイモンの命令”と言ったら動く」というルール。「ジャンプして!」とだけ言われた時に動かないように我慢することで、注意深く指示を聞き、衝動をコントロールする練習になります。

 

「叱る」から「育てる」への転換

重要なのは、衝動的な言動を「悪いこと」としてただ叱るのではなく、「まだ育っていない脳の機能を、一緒に育てていこう」という視点を持つことです。

 

「今、言いたいのを我慢できたね!」「順番を待ててえらいね!」できたことを具体的に褒めることで、子どもは自己コントロールの成功体験を積み、自信を持つことができます。

 

失敗しても、「次はどうしたら言わずにいられるかな?」と一緒に考える関わりが、子どもの健やかな発達を支えます。

 

まとめ

子どもの衝動的な言動は、脳のブレーキ機能である「実行機能」が発達段階にあるサインです。

 

遊びを通して「待つ」「考える」「我慢する」経験を楽しく繰り返すことが、自己コントロール能力を育む最も効果的な方法です。

 

この記事で紹介した遊びはほんの一例です。より詳しい脳の仕組みや、子どもの特性に合わせた具体的な遊びのレシピ、発達を評価するためのチェックシートなどを、以下のnote記事で詳しく解説しています。

 

👉 脳科学に基づく「10の遊びレシピ」と「実行機能チェックシート」はこちら

【note有料記事】「つい言っちゃう」子の実行機能トレーニング-脳科学に基づくお家あそび実践ガイド-


 

参考文献

  1. Diamond A. Executive Functions. Annu Rev Psychol. 2013;64:135-168.
  2. Miyake A, Friedman NP, et al. The Unity and Diversity of Executive Functions and Their Contributions to Complex "Frontal Lobe" Tasks: A Latent Variable Analysis. Cogn Psychol. 2000;41(1):49-100.

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