幸せな生活とは?お金ではなく,やりたいことが出来る健康な状態?
私は,病院の療養型病棟に勤務をしています.療養型病棟とは医療的処置が多く,在宅に帰れない患者さんが多くいる病棟の事です.
必然的に入院年数が5年とか10年になる方も多く病院外に出る事は中々出来ません.そんな病棟で患者さんと長く接していると同じような言葉を投げかけられることが多い事に気付かされます.
それは「今,好きなことをやれてるかい?健康はお金がいくらあっても変えないし,お金はいくらあっても何もできなくなるよ.友達の所にも行けない.」と話し方は違うがこのような内容です.要は,病気で動けなくなれば,お金があっても使うところはないし好きな場所や気心の合う友人にも会えないというのでした.
医療的な立場でひも解くと,このような患者さんの多くはフレイルという病態に陥っていると推測されます.
フレイルとは何?
フレイルという言葉を聞いたことがあるでしょうか.
フレイルとは,凄くざっくりと言うと活動量が少なくて「寝たきり」になりそうな方や寝たきりになっている方々を定義する病態の事です.
介護保険に合わせて考えると要介護になる一歩手前の状態ともいえます.
フレイルの定義としては「多くの慢性疾患と同時に精神心理的な問題を抱え,社会的な孤立を併せ持つ病態」とされています.
ここで注目すべきポイントは,身体的な虚弱に加えて,「社会的な繋がり」もフレイルという病態に含まれている事です.
2017年の国の調査によるとフレイルという病態に当てはまる方は,65歳以上では全体の11.2%,85歳以上に絞れば34.0%にもなる方々が当てはまっていると言われています.
フレイルには,大きく3つの概念に分けられており,それぞれを簡単に以下に説明していきます.
3つのフレイルが提唱されてる
フレイルの定義を読むと,パッと思いつくのは加齢などで筋力等が低下して寝たきりになっているという身体的フレイルのイメージが強いと思います.
私も最初はそうでした.しかし,実際には認知的フレイルと社会的フレイルという物があります.
例えば,自分がインフルエンザなどで寝たきりになっていることを想像するとします.
1週間やそれくらいだったら体力が落ちるくらいで大丈夫だと思います.それが1年だったら?3年だったらどうでしょう?毎日変わらない天井や部屋を見つめ,受け身に聞き続けるテレビやラジオ.自分の考えの発信する機会も少なく,徐々に物事への意欲や思考力が奪われていく.さらに加齢による影響がついてきます.
このような病態が徐々に時間をかけて形成されていきます.
意欲とは,「人,環境や事象に対する積極的な反応」とされています.
お金があっても使うところもない・使う意欲も乏しい.こうして認知的フレイルが作られていくのです.
社会的フレイルは引きこもりと社会からの孤立の事を指します.皆さんで似たような経験をされている方も多いかもしれないですが,同じように寝たきりが長く続くと趣味のサークルや友達との集まりにお出掛けは難しいですね.
一度,不参加を決め込んでしまうと2回目3回目と休み癖が付き,徐々に引きこもりになり社会的に孤立する.これが社会的フレイルです.
フレイルの原因は何?
これら3つのフレイルは,それぞれが影響しあって問題を引き起こすが,原因は多岐にわたっています.
- 加齢
- 口腔嚥下機能
- 栄養状態
- 歯の状態
- 内科的コントロール
- 家族環境
- 経済状態による影響
などです.
どれか一つでもおかしくなると,たちまち心身は悪くなっていく.これらの詳細はまた別の機会に述べてこうと思います.
本日の最後に
今回,療養型病棟の患者さんのつぶやきからフレイルという病態について思う事を書いてみました.
理解していてほしいのは寝たきりなどのフレイルは,改善する余地はあり可逆的に動けるような方は多い.
そのために早期の意識付けや運動,趣味などを楽しんでもらえたらありがたいです.
【一言まとめ】
フレイルは心身共に影響を与えるが,予防と治療をすれば改善が見込める.
”(引用)荒井秀典ら編 サルコペニア・フレイル指導士テキスト医歯薬出版.2020 ”