「右側は平気なのに、左側だけ触られるのを嫌がる」そんな子どもの不思議、ありませんか?
「右足に靴下を履くのは平気なのに、なぜか左足だけはすごく嫌がるんです…」「右手は上手に使えるけど、左手で粘土に触るのは極端に怖がる」
保育や子育ての現場で、このようなお子さんの体の左右で異なる不思議な反応に、首をかしげた経験はありませんか?
体の右側と左側で反応が違うと、「どうしてなんだろう?」と心配になったり、不思議に思ったりしますよね。私も実際に現場で稀に見るケースなので、なぜだろう?と原因を解明するのに苦労することがあります。
実はその行動、単なる癖やわがままではなく、お子さん自身の「感覚の世界」が大きく関係しているのかもしれません。
今回は、そんな「感覚の左右差」の背景にある、脳と感覚の関係性について、詳しく解説していきます。
なぜ、左右で感じ方が違うの?
身体図式の影響
私たちの脳の中には、自分自身の体の形や大きさ、手足がどこにあるかを示す、目には見えない「地図」のようなものがあります。
専門用語では「身体図式(しんたいずしき)」と言い、ボディスキーマとも呼ばれています。
身体図式とは?
自分の体に内蔵された「体のナビゲーター」のようなものです。このナビゲーターのおかげで、私たちは目をつぶっていても自分の鼻を触れたり、狭い場所をぶつからずに通り抜けたりできるのです。
発達に特性のあるお子さんの中には、この「脳の中の地図」が、まだ少しぼんやりしていたり、部分的にうまく描けていなかったりすることはよくあります。
例えば体の左側の情報が脳に届きにくく、「左手がなんだか自分のものではないような、不思議な感じがする」といったことや、「触られると過剰にびっくりしてしまう」といったことが起こるのです。
脳梁の影響
身体図式だけでなく、もう一つ大切なのが「右脳と左脳のキャッチボール」がうまくできているかどうかです。
私たちの脳は、とても大まかに言うと、右脳と左脳、2つの専門チームに分かれて仕事をしています。
- 右脳チーム: 体の左半身からの感覚情報を受け取り、空間の認識やひらめきなどを担当。
- 左脳チーム: 体の右半身からの感覚情報を受け取り、言葉や計算などを担当。
そして、この右脳チームと左脳チームをつなぐ重要な橋が「脳梁(のうりょう)」と呼ばれるものになります。
私たちの体は、右半身を左脳が、左半身を右脳が、というように左右の脳がクロスしてコントロールしています。
左右の脳は「脳梁」によって、常に情報をやり取りしているのです。
この情報のやり取りがスムーズにいくことで、私たちは両手を上手に使ったり、バランスをとって歩いたりできるのです。
発達に特性のあるお子さんの中には、この「脳梁」という橋での情報のやり取りが、まだ少しスムーズでない場合があります。
例えるなら、左右の脳をつなぐ大きな橋がまだ工事中で、一方通行や渋滞が起きているような状態です。
これが原因で、体の左右から入ってきた感覚情報がうまく一つにまとまらず、「右は大丈夫だけど、左はすごく不快」「左右で別々の体みたいに感じる」といった感覚のアンバランスさが生じることがあるのです。
脳の中でバラバラな感覚情報を整理整頓し、意味のあるまとまりにする働きを「感覚統合」と言います。
感覚統合は、いわば「脳の中の交通整理」のようなもの。この交通整理がうまく働くことで、私たちは自分の体をスムーズに動かしたり、周りの状況に適切に反応したりできるのです。
脳の地図を育てる「おうち遊び」のヒント
では、どうすれば脳の中の地図を育て、左右の脳のキャッチボールを上手にしてあげられるのでしょうか?
難しく考える必要はなく、いつもの遊びの中にたくさんのヒントが隠されています。
お子さんが「楽しい!」と感じる遊びの中で、自然と脳の橋渡しを促していきましょう。ここでは、今日から試せる3つの遊びをご紹介します。
①正中線(せいちゅうせん)越えタッチ
お子さんと向かい合って座り、「右手で、私の左の肩をタッチ!」「左手で、右の膝をタッチできるかな?」と、体の中心線を越える動きを遊びに取り入れます。
おもちゃの受け渡しもこのルールでやってみましょう。
育つ力
②動物ものまね歩き
「クマさんになろう!」と声をかけ、四つ這いで歩いてみましょう。
右手と左足、左手と右足を交互に出すこの動きは、左右の脳の連携を促すのに最適な運動です。
育つ力
③シーツでゆらゆらハンモック
バスタオルの両端を大人2人で持ち、お子さんを乗せて優しく左右に揺らします。
「右にゆら〜り、左にゆら〜り」と声をかけながら、左右対称の穏やかな揺れを感じてもらいましょう。
育つ力
いかがでしたか?一つひとつの遊びには、こんな風に深い意味が隠されているのです。
まとめ
今回は、お子さんの体の左右で感覚が違う理由について、「脳の中の地図(身体図式)」と「右脳と左脳のキャッチボール」という視点からお話ししました。
- なぜ? → 脳の右側と左側の連携がまだ発達の途中だから。
- どうすれば? → 左右の体を一緒に使う「遊び」で、脳の橋渡しをサポートする。
この記事を読んで、「なるほど、そういうことだったのか」と、少しだけお子さんの行動の理由が見えたなら、とても嬉しいです。
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参考文献
- Bundy, A. C., Lane, S. J., & Murray, E. A. (2021). Sensory integration: Theory and practice (4th ed.). F.A. Davis Company.
- Goble, D. J., & Brown, S. H. (2008). The biological and behavioral basis of upper limb asymmetries in sensorimotor performance. Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 32(3), 598-615.
- Schaaf, R. C., Benevides, T., & Sendecki, J. (2018). The Issue Is—Sensory integration and processing: A complex and important topic. American Journal of Occupational Therapy, 72(1), 7201205030p1-7201205030p4.
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