子どもの姿勢が悪いのはなぜ?勉強の集中力を高める「座る力」の育て方【理学療法士が解説】

「うちの子、勉強を始めてもすぐにグニャグニャになる…」 「椅子の上で体操しているみたいに、そわそわ落ち着かない」 「注意しても、すぐに机に突っ伏してしまう」

 

お子さんの学習中の姿を見て、こんな風に悩んでいませんか?

 

ついつい「背筋を伸ばしなさい!」と声かけしたくなりますが、実は多くの場合、お子さんは怠けているわけでも、ふざけているわけでもありません。

 

その姿勢の崩れの背景には、脳と体の発達、特に「感覚」の問題が隠れていることがあるのです。

 

これまで多くの発達に特性のあるお子さんと関わる中で、「学習の土台には、安定した姿勢を保つ力、つまり『座る力』が不可欠だ」ということを実感してきました。

 

この記事では、なぜ姿勢が学習効率に関わるのか、その脳科学的な理由と、ご家庭や園で楽しく「座る力」を育てるための遊びのアイデアを、専門的な視点からやさしく解説します。

 

「良い姿勢」が脳をONにする!学習と感覚の深い話

なぜ、姿勢が悪いと集中力が続かないのでしょうか?それは、私たちの脳の仕組みに理由があります。

理由1:脳の”エンジン”は姿勢とつながっている

私たちの脳の中心部には、「脳幹網様体賦活系(のうかんもうようたいふかつけい)」という、脳全体の目覚め(覚醒)をコントロールする大切な部分があります。

 

聞いたことがない言葉かもしれませんが、例えるなら、脳の”メインスイッチ”や”エンジン”のようなものです。

 

このエンジンは、背骨からのまっすぐな刺激、つまり「良い姿勢」を保つことで適度にONになり、学習に必要な「集中モード」へと切り替えてくれます。

 

ですが姿勢が崩れると、このエンジンに適切な刺激が届かず、脳は「お休みモード」のまま。

 

その結果、「ぼーっとする」「眠くなる」といった状態になり、学習内容が頭に入りにくくなってしまうのです。

 

理由2:「見えない感覚」が姿勢の土台

では、なぜ姿勢が崩れてしまうのでしょうか。そのカギを握るのが「感覚統合」という考え方です。

 

特に大切なのが、以下の2つの”見えない感覚”です。

固有感覚(こゆうかんかく)

筋肉や関節から入力される「体の位置」や「力の入れ具合」を感じるセンサーです。

 

この感覚が育つと、自分の体の地図(ボディイメージ)が脳内にできあがり、無意識に体をコントロールできるようになります。

 

固有感覚が未熟だと、体を支えるために余計なエネルギーを使い、すぐに疲れてグニャグニャになってしまいます。

 

前庭感覚(ぜんていかんかく)

耳の奥にあるセンサーで、重力や体の傾き、スピードを感じ取ります。

 

バランスを保つだけでなく、脳の覚醒レベルを調整する重要な役割も担っています。

 

この感覚がうまく働かないと、じっと座っているのが苦手で、体を揺らしたり、わざと椅子から落ちたりして、自分で脳に刺激を入れようとすることがあります。

 

つまり、「良い姿勢で座る」という一見簡単なことには、これらの感覚が脳の中で適切に整理され(=感覚統合)、無意識のうちに体を支えるための「脳の土台」が必要不可欠なのです。

 

感覚統合についてはこちらの記事で詳しく解説しています。

参考
落ち着きがないのはワガママじゃない?子どもの行動の謎を解く『感覚統合』入門ガイド

「どうしてうちの子は、じっと座っていられないんだろう?」 「何度言っても、お友達を強く叩いてしまう…」 「特定の服しか着たがらないのは、ただのワガママ?」   子育てや子どもたちの支援の現場 ...

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今日からできる簡単”感覚遊び”3選

「じゃあ、どうすればその土台を育てられるの?」 答えは「遊び」にあります。

 

子どもにとって遊びは最高の学びであり、脳と体を育てるトレーニングです。ここでは、ご家庭で簡単に取り入れられる3つの遊びを紹介します。

① クマさん歩き(固有感覚たっぷり!)

四つ這いになり、膝を床から少し浮かせて手と足で前に進みます。

 

ポイント

手と足の裏でしっかりと床を押し、お尻を高く上げましょう。

 

「クマさんになって、向こうのお山まで探検だ!」など、ストーリーを作ると楽しめます。

ねらい

自分の体重を自分の手足で支えることで、筋肉や関節にたくさんの固有感覚が入力され、体の地図作りを助けます。

 

② バランスボールでゆらゆら読書(前庭感覚&体幹)

バランスボールの上にうつ伏せや座位で乗り、安定して座る練習をします。

 

ポイント

まずは大人が支えながら、少し揺らすところからスタート。

 

慣れてきたら、ボールの上で絵本を読んだり、簡単なキャッチボールをしたりするのも良いでしょう。

ねらい

不安定なボールの上で姿勢を保とうとすることで、前庭感覚と体幹の筋肉が自然に鍛えられます。

 

③ タオルで綱引き(力のコントロール)

親子やきょうだいでタオルの両端を持ち、座ったまま「ぎゅーっ」と引っ張り合いをします。

 

ポイント

ただ力任せに引っ張るだけでなく、「せーの!」で力を入れたり抜いたり、強さを調整したりするのがコツです。

 

「負けないぞー!」と声をかけながら楽しみましょう。

ねらい

筋肉を強く使うことで固有感覚が刺激され、脳がシャキッと目覚めます。勉強前の短い時間に行うのも効果的です。

 

まとめ

お子さんの学習中の姿勢が気になる時、私たちはつい「姿勢が悪いから集中できない」と考えがちです。

 

しかし、今回お伝えしたように、脳の土台となる感覚が育っていないから、結果として姿勢が崩れ、集中できない」という視点を持つことが、解決への第一歩です。

 

良い姿勢は「しつけ」だけで身につくものではありません。遊びを通して、脳と体をつなぐ感覚の土台をじっくりと「育てる」もの。

 

一つ一つの遊びが、お子さんの「座る力」を、そしてその先の「学ぶ力」を確かに育んでいきます。

 

今日からぜひ、"叱る"を"誘う"に変えて、「一緒にクマさん歩きしない?」と声をかけてみてください!

 

なお、こちらの記事はnoteの方でより詳しく解説しています。無料公開していますので、ぜひ参考にしてみてください。

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