朝の忙しい時間に何度も確認したはずなのに、玄関を出る間際になって「あ、忘れてた!」。
あるいは、つい数分前に「手を洗ってからおやつ食べてね」と伝えたのに、気づけばそのままお菓子に手を伸ばしている。
そんなお子さんの姿を見て、「どうして何度言っても覚えてくれないの?」「私の伝え方が悪いのかな……」と、つい自分を責めたり、イライラが募ってしまったりすることはありませんか?
実は、この「すぐ忘れてしまう」という行動の裏には、お子さんの脳の特性が深く関わっています。
今回は、理学療法士の視点から、お子さんの頭の中で何が起きているのか、そして今日から少しだけ心が軽くなる関わりのヒントをお話しします。
脳の「作業スペース」が関係?
私たちが何かをしようとする時、脳の中には「ワーキングメモリ」という場所が働きます。 これはよく「脳の机(作業机)」に例えられます。
何か指示を受けたり、作業をしたりする時、私たちはこの「机」の上に情報を広げて処理します。しかし、発達に特性のあるお子さんの多くは、この机のサイズが少しコンパクトだったり、あるいは机の上が常に他のことで散らかっていたりする状態にあります。
机が小さい
一度に2つ以上の指示(例:「ランドセルを置いて、手を洗って、着替えて」)をされると、机から情報がこぼれ落ちてしまいます。
机が散らかっている
窓の外の鳥の声や、隣の部屋のテレビの音など、周囲の刺激がすべて机の上に乗ってしまい、肝心の「やるべきこと」を置くスペースがなくなってしまいます。
これが、「さっき言ったことをすぐ忘れる」という現象の正体です。
ワーキングメモリは、前頭前野という脳の司令塔が司っています。
研究(Alloway, T. P., et al.)によれば、ワーキングメモリの容量には個人差があり、特に学習や行動のコントロールに直結することが示されています。お子さんは「忘れた」のではなく、脳の机から「こぼれ落ちてしまった」だけなのです。
ワーキングメモリについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
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集中力・思考力のカギはこれ!子どもの発達を支えるワーキングメモリの仕組みを専門家が徹底解説
「さっき言ったばかりなのに、もう忘れてる…」 「お片付けの途中で、違う遊びを始めてしまう」 「忘れ物が多くて、毎朝ガミガミ言ってしまう」子育てをしていると、こうした悩みにぶつかることはありませんか? ...
「体」への刺激が、記憶のフックになる
では、どうすれば「机」からこぼさないようにできるのでしょうか? 一つの鍵は、言葉だけでなく「カラダ(感覚)」を使うことです。
療育の現場で大切にしているのは、「固有受容覚(こゆうじゅようかく)」への刺激です。これは、自分の体の位置や力加減を感じる「体のナビゲーター」のような感覚です。
例えば、こんな小さな工夫から始めてみませんか?
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「ハイタッチ」で記憶をロック! 指示を伝えた直後にパチンとハイタッチをします。手のひらへの適度な圧力が、脳への「注目スイッチ」を押し、記憶を定着させやすくします。
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「指差し確認」のダンス 「帽子、ヨシ! 水筒、ヨシ!」と、体全体を使って大きく指を差しながら確認します。自分の体の動き(運動)とセットにすることで、言葉だけの時よりも忘れにくくなります。
まとめ
「忘れてしまう」のは、お子さんが一生懸命に今この瞬間を生きている証拠でもあります。でも、毎日のこととなると、支えるご家族も疲れてしまいますよね。
大切なのは、お子さんの「脳の机」に合わせた、情報の「伝え方」と「整理の仕方」を知ることです。
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指示は一つずつ、短く伝える。
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視覚的なサポート(絵カードなど)で机の外にメモを貼る。
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「体」を使った遊びで、脳の覚醒を整える。
これだけでも、日常のイライラはぐっと減っていきます。
では、具体的に「脳の机」を広げるにはどんな運動遊びが効果的なのでしょうか? また、ADHDやASDといった特性ごとに、どのような「環境の整え方」がベストなのでしょうか?
一人ひとりの特性に合わせたさらに深い関わりのヒントについては、私のnoteで詳しくお話ししています。
保育や子育てがもっと楽に、そしてお子さんとの笑顔の時間がもっと増えるような知恵を詰め込みました。もしよろしければ、ぜひ覗いてみてください!
参考
- Alloway, T. P., et al. Working memory abilities in children with special educational needs.January 2005Educational and Child Psychology 22(4)