ゲームのやりすぎで抑制が効かない?おもらしが増える?研究結果から見る原因と家庭でできる対策

「うちの子、最近ゲームばかりで言うことを聞かない…」「注意するとすぐにカッとなるのは、ゲームのせい?」「小学生になっても、おもらしが増えた気がする…もしかしてゲームに夢中になりすぎ?」

 

お子さんのゲームとの付き合い方について、このような悩みを抱えていませんか?

 

近年、スマートフォンの普及とともに、子どものゲーム時間は増加傾向にあります。楽しいゲームは、子どもの世界を豊かにする一面もありますが、その一方で「やりすぎ」による心身への影響を心配する声が多く聞かれるのも事実です。

 

特に「感情のコントロールが効かなくなった」「トイレの失敗が増えた」といった問題は、保護者の方々にとって深刻な悩みでしょう。

 

この記事ではゲームの長時間利用が子どもの脳(特に「抑制機能」)に与える影響やゲームに没頭することが「排尿の失敗」につながるメカニズム、発達障害の特性とゲーム依存の関係性についてわかりやすく解説していきます。

 

ゲーム好きとは違う「ゲーム障害」

まず知っておきたいのは、単なる「ゲーム好き」と治療が必要な「ゲーム障害(Gaming Disorder)」は違うということです。

 

2019年、世界保健機関(WHO)は、国際疾病分類第11版(ICD-11)の中で、新たに「ゲーム障害」を病気として認定しました。その特徴は以下の3つです。

  1. コントロールができない:ゲームをする時間や頻度、状況などを自分で制御できない。
  2. 他のことよりゲームを優先する:日常生活の他の関心事(勉強、友達付き合い、食事、睡眠など)よりもゲームを著しく優先する。
  3. 問題が起きても続ける:ゲームが原因で学業や家族関係に重大な問題が生じているにもかかわらず、ゲームを続ける、またはさらにのめり込む。

これらの状態が12ヶ月以上続く場合に「ゲーム障害」と診断される可能性があります。つまり、ただ長時間ゲームをしているだけでなく、生活に支障をきたし、本人の意思ではやめられない状態が問題なのです。

 

ゲームのやりすぎで「抑制」が効きづらくなる脳のメカニズム

「ゲームを始めるとなかなかやめられない」「注意されると、ものすごく怒る」 こうした「抑制の効きにくさ」は、ゲームによる脳への影響、特に前頭前野(ぜんとうぜんや)の発達と深く関わっています。

 

脳の司令塔「前頭前野」の働き

前頭前野は、おでこのすぐ後ろにある脳の領域で、「脳の司令塔」とも呼ばれます。主な働きは以下の通りです。

前頭前野の働き

  • 思考や判断
  • 行動や感情のコントロール(抑制機能)
  • 計画を立てて実行する(実行機能)
  • コミュニケーション

この前頭前野は、人間の脳の中で最も遅く、20代半ばまでゆっくりと発達していきます。つまり、子どもの前頭前野はまだ発達の途中であり、非常にデリケートな状態にあるのです。

 

ゲームの強い刺激が脳のバランスを崩す

ゲームは次々と新しい標的が現れたり、アイテムが手に入ったりと、子どもにとって非常に強い刺激と達成感(報酬)を与え続けます。このとき、脳内では「ドーパミン」という快感物質が大量に放出されます。

 

適度なドーパミンは意欲につながりますが、ゲームのように即時的で強力な報酬が断続的に与えられ続けると、脳の報酬系が過剰に活動してしまいます。

 

韓国で行われた研究では、インターネットゲーム障害の青少年は、健常な青少年に比べて、報酬に対する脳の反応が過敏になる一方、損失に対する反応は鈍感になっていることが示唆されました。

 

これはゲームの報酬を強く求め、ゲームができないことによるデメリット(成績低下など)を軽く見てしまう脳の状態を示しています。このような状態が続くと、脳はより強い刺激を求めるようになります。一方で、その興奮を抑え、冷静に判断を下す役割の前頭前野は、過剰な刺激に晒され続けることで疲弊し、機能が低下してしまうのです。

 

実際にインターネットゲーム障害の若者の脳を調べた質の高い研究では、衝動的な行動の抑制に関わる脳領域(前頭前野の一部である背外側前頭前野や前帯状皮質など)の活動低下が報告されています(2)。

 

つまり、ゲームのやりすぎは、脳のアクセル(報酬系)ばかりが強化され、ブレーキ(前頭前野の抑制機能)が効きにくくなる状態を作り出してしまうのです。その結果として、「ゲームをやめられない」「欲しいものを我慢できない」「カッとなりやすい」といった行動につながります。

 

ゲームと排尿トラブルとの意外な関係

「ゲームに夢中になると、トイレに行くのを忘れて失敗してしまう」 この問題は、単に「我慢しすぎ」という心理的な問題だけでは片付けられません。ここにも、脳と体のメカニズムが関わっています。

 

1. 身体感覚の鈍化

ゲーム中は、視覚や聴覚から入ってくる情報処理に脳が集中しています。特に、次々と展開が変わるアクションゲームや対戦ゲームでは、高度な集中力が求められます。

 

その結果、尿意や便意といった身体の内部からのサインを感じ取る感覚が鈍くなってしまうのです。子ども自身は「まだ大丈夫」と思っていても、膀胱は限界に達しており、ふとした瞬間に失敗につながります。

 

これは非常に集中して本を読んでいるときに、周りの音が聞こえなくなる現象と似ています。

 

2. 自律神経の乱れ

私たちの体は、活動時に優位になる「交感神経」と、リラックス時に優位になる「副交感神経」という2つの自律神経がバランスを取りながら機能しています。

 

排尿は膀胱に尿が溜まっている間は交感神経が働いて尿道を締め、尿を出すときには副交感神経が働いて膀胱を収縮させるという、絶妙な連携プレーで行われます。

 

しかしゲーム中は画面からの強い光や刺激的な音、勝敗による興奮などにより、交感神経が過剰に優位な状態(興奮・緊張状態)が長時間続きます。この状態が続くと自律神経のバランスが乱れ、排尿をコントロールする繊細な神経の働きにも影響を及ぼす可能性があります。

 

特に夜遅くまでゲームをしていると、睡眠中も交感神経の興奮が収まらず、心身がリラックスしきれません。

 

質の良い睡眠は、夜間の尿量を減らす抗利尿ホルモンの分泌にも不可欠です。睡眠不足や睡眠の質の低下が、夜尿(おねしょ)の一因となることも指摘されています(3)。

 

このように、ゲームへの過度な没頭は、脳の感覚処理と自律神経の両方に影響を与え、排尿の失敗につながる可能性があるのです。

 

特に注意が必要な「発達障害」との関連性

ゲームへののめりこみは、発達障害、特にADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)の特性を持つお子さんにおいて、より顕著に現れることがあります。

 

ADHD(注意欠如・多動症)

衝動性(思ったことをすぐ行動に移す)、多動性(じっとしていられない)、不注意(集中力が続かない)があります。脳機能的には、報酬を待つのが苦手で、すぐに結果が得られるものを好む傾向があります。

 

即時的な報酬が得られやすいゲームは、ADHDの特性と非常に相性が良く、他の活動よりも強く惹きつけられ、のめり込みやすいのです(4)。

 

ASD(自閉スペクトラム症)

ASDの特性には、特定の物事への強いこだわりや、感覚の過敏さ・鈍麻さがあります。

 

ルールが明確で、自分のペースで進められる一人用のゲームは、対人関係の曖昧さや予測不能な刺激が苦手なASDのお子さんにとって、安心できる世界であることが多いです。その結果、過度に没頭してしまうことがあります。

 

発達障害があるからゲーム依存になるわけではありませんが、その特性がゲームへののめりこみやすさと関連していることは、多くの研究で指摘されています。お子さんの特性を理解した上で、関わり方を工夫することが重要です。

 

子どもの発達を守るための具体的な対策

では、どうすればゲームと上手に付き合い、子どもの健やかな発達を守れるのでしょうか。

 

一方的にゲームを禁止するのは、反発を招くだけでなく、子どもが唯一安心できる場所を奪ってしまうことにもなりかねません。大切なのは、環境を整え、子どもと向き合うことです。

 

ステップ1:環境を整える

まずゲームにのめり込みにくい環境を作りましょう。

対策

  • ゲーム機やタブレットはリビングに置く
  • 寝室には持ち込ませない(睡眠時間確保)
  • ペアレンタルコントロール機能を活用
  • タイマーを使う(視覚的な理解)

 

ゲーム機は自室に持ち込ませず、必ず家族のいる場所で遊ぶルールにすることで、孤立を防ぎ、睡眠時間を確保することにつながります。

 

また最近は保護者のスマホからゲーム機をコントロールできるようになっているので、プレイ時間を制限・年齢以上のコンテンツブロックをペアレンタルコントロール機能を使って行うのも有効です。

 

ステップ2:子どもと向き合う

環境を整えたら、次はお子さんと一緒にルールを決めましょう。

対策

  • 一方的に決めつけず、話し合う
  • ルールは具体的に、シンプルに
  • 守れたことを褒める

まずは子どもの意見を聞く姿勢が大切です。「ゲームは1日1時間にしなさい!」と頭ごなしに決めるのではなく、「勉強も大事だし、睡眠も必要だから、ゲームの時間をどうするか一緒に考えよう」と子供自身が納得してルールを決めると良いでしょう。自分で決めたルールは、守ろうという意欲が湧きやすくなります。

 

また「平日は1時間まで」「夜8時以降はしない」「宿題が終わってから」など、誰にでも分かりやすい具体的なルールとし、資視覚的に見えるように、書いて貼っておくのも有効です。

 

そしてルールを守れたときに「約束守れたね、えらいね!」と具体的に褒めることで、自己肯定感を育み、次の意欲につなげます。

 

ステップ3:ゲーム以外の世界を広げる

ゲームに代わる「楽しい時間」を増やすことが、根本的な解決につながります。

リアルな体験を増やす

キャンプや釣り、スポーツ、ボードゲームなど、親子で一緒に楽しめることを見つけましょう。

 

身体を動かす外遊びは、脳機能の発達やストレス解消にも非常に効果的です。運動が子どもの実行機能を高めることは、多くの研究で示されています(6)。

 

子どもの興味関心を応援する

ゲーム以外に少しでも興味を示したものがあれば、それを深める手伝いをしましょう。プログラミングや動画編集など、ゲームから派生する創造的な活動に導くのも一つの方法です。

 

家庭での役割を与える

お手伝いなど、家庭内での役割を与えることで、自己有用感を育みます。「ありがとう、助かったよ」という感謝の言葉は、ゲームの達成感とは違う、温かい報酬となります。

 

まとめ

子どものゲームへの没頭は、脳の発達、特に感情や行動をコントロールする「前頭前野」の機能に影響を与え、「抑制が効かない」「おもらしが増える」といった問題を引き起こす可能性があります。それはお子さんの意志が弱いからではなく、脳の発達メカニズムが関係しているのです。

 

ゲームは、上手に付き合えば、思考力や創造性を育むポジティブな側面も持っています。大切なのは、ゲームを悪者扱いして一方的に取り上げるのではなく、そのリスクを正しく理解し、家庭で適切なルールと環境を作ることです。

 

もし、家庭での対応だけでは改善が難しい、お子さんの言動がエスカレートして対応に困っている、という場合は、一人で抱え込まずに専門機関に相談してください。かかりつけの小児科医、地域の保健センター、児童精神科などで相談が可能です。

 

この記事が、お子さんの健やかな発達と、より良い親子関係を築くための一助となれば幸いです。

参考文献

  • [1] Dong, G., & Potenza, M. N. (2014). A cognitive-behavioral model of Internet gaming disorder: theoretical underpinnings and clinical implications. Journal of psychiatric research, 58, 7-11.
  • [2] Zhang, J. T., Yao, Y. W., Potenza, M. N., Xia, C. C., Lan, J., Liu, L., ... & Fang, X. Y. (2016). Effects of craving behavioral intervention on neural substrates of cue-induced craving in excessive Internet gamers: a functional magnetic resonance imaging study. Brain and behavior, 6(8), e00494.
  • [3] Nevéus, T. (2017). The role of sleep and arousal in nocturnal enuresis. Journal of pediatric urology, 13(6), 590-593.
  • [4] Wang, B. Q., Yao, N. Q., Zhou, X., Liu, J., & Lv, Z. T. (2017). The association between attention deficit/hyperactivity disorder and internet addiction: a systematic review and meta-analysis. BMC psychiatry, 17(1), 1-13.
  • [5] Hysing, M., Pallesen, S., Stormark, K. M., Jakobsen, R., Lundervold, A. J., & Sivertsen, B. (2015). Sleep and use of electronic devices in adolescence: results from a large population-based study. BMJ open, 5(1), e006748.
  • [6] Hillman, C. H., Erickson, K. I., & Kramer, A. F. (2008). Be smart, exercise your heart: exercise effects on brain and cognition. Nature reviews neuroscience, 9(1), 58-65.

 

 

なおこちらの記事ではAI時代の子育てについて解説していますので、合わせてご覧ください。

参考
【AI時代】子育てはもう迷わない!科学が教える「賢い親の育て方」

スマートフォンやAIスピーカーが暮らしにすっかり溶け込んだ今、子育ての景色も大きく変わりました。   「AIに仕事が奪われるって聞くけど、うちの子は大丈夫?」「スマホやタブレットって、いつか ...

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