子どが階段の下りを怖がるのはなぜ?理学療法士が解説する「感覚のズレ」と安心サポート法

「うちの子、上りは平気なのに、なぜか階段の下りだけすごく怖がる…」 「手すりをぎゅっと握りしめて、お尻をつかないと下りられない」

 

そんなお子さんの姿を見て、心配に思ったり、どうサポートすれば良いか悩んだりしている保護者の方や支援者の方も多いのではないでしょうか。

 

「どうして怖いの?」と聞いても、子どもはうまく説明できません。もしかしたら、その怖さの背景には、本人の意思とは関係のない「感覚の受け取り方の特性」が隠れているのかもしれません。

 

この記事では、多くのお子さんを支援してきた経験から、階段の下りを怖がる理由を「感覚統合」と「脳科学」の視点からやさしく解説し、ご家庭や園で安心して試せるサポート方法をお伝えします。

 

なぜ怖い?怖さの正体は?

多くの場合、階段への強い恐怖は、わがままや甘えではなく、感覚の処理がうまくいかないことによる「本能的な不安」から来ています。特に大切なのが、次の2つの感覚です。

 

1. 前庭感覚(ぜんていかんかく)

私たちの耳の奥には、体の傾きや重力、スピードを感知する「前庭感覚」というセンサーがあります。三半規管という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、まさにそれが前庭感覚を受け取るカラダの一部になります。

 

前庭感覚はカラダの傾きや加速など、自分の今のカラダが今どんな状態で、どの方向に動いているかを脳に伝えています。

 

階段を下りるとき、カラダが一瞬フワッと浮くような感覚になりますよね。 前庭感覚が過敏なお子さんは、この「フワッ」を「落ちる!」という危険信号として受け取ってしまいます。

 

大人にとってはなんてことない刺激が、本人にとってはジェットコースターの頂点にいるような、強い恐怖に感じられるのです。これを「重力不安」と呼ぶこともあります。

 

2. 固有感覚(こゆうかんかく)

「固有感覚」とは、筋肉や関節から送られてくる情報で、目で見なくても自分の手足がどこにあるか、どれくらい曲がっているかがわかる感覚です。

 

私たちはこのおかげで、足元を見なくてもスムーズに階段を下りられます。

 

この感覚の働きが弱いと、足が地面にしっかり着いている感覚が分かりづらく、足の位置も曖昧になります。

 

「自分の足はどこ?」「どれくらい足を伸ばせば次の段に着くの?」と、自分の体がうまくコントロールできないような不安に襲われます。

 

足元がおぼつかない雲の上を歩いているような感覚、と言えばイメージしやすいかもしれません。

 

これらの感覚がうまく連携せず、目で見た情報(段差の高さ)と体の感覚がズレてしまうと、子どもは混乱し、動けなくなってしまうのです。

 

感覚統合についてはこちらの記事で解説しています。

参考
落ち着きがないのはワガママじゃない?子どもの行動の謎を解く『感覚統合』入門ガイド

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安心を育てる!お家でできる「感覚統合あそび」3選

では、どのように支援したらいいのでしょうか?

 

大切なのは、無理に階段で練習させることではなく、まずは楽しい遊びを通して、脳が色々な感覚を上手に処理できるように手助けしてあげることです。

 

ここでは、ご家庭で簡単にできる3つの遊びを紹介します。

遊び①:お布団マウンテン登り

目的

固有感覚を刺激し「踏ん張る力」と「自分の体の位置を感じる力」を育てる。

方法

掛け布団やクッションを重ねて小さな山を作り、その上をハイハイで登ったり下りたりして遊びます。

「クマさんになって探検だ!」など、ごっこ遊びにするとより楽しめます。

ポイント

手足でぐっと体を支える経験が、足元の安定感につながります。

 

遊び②:ゆらゆらタオルハンモック

目的

前庭感覚を調整し、「心地よい揺れ」に慣れる。

方法

大きめのバスタオルの両端を大人二人で持ち、お子さんを乗せてゆっくり左右に揺らします。

慣れてきたら上下動かして、下がった時に「フワッ」とした感覚も取り入れてあげます。

ポイント

必ず「ゆっくり、小さく」から始めましょう。

お子さんの表情を見ながら「気持ちいいね」と声をかけ、揺れが怖いものではないことを伝えます。

 

遊び③:足あとペタペタ歩き

目的

視覚情報と体の動きを一致させる練習(運動企画)。

方法

色画用紙などで作った足あとを床に貼り、その上だけを歩いてゴールを目指すゲームです。

最初は直線上、慣れてきたら少し左右にずらして難易度を調整します。

ポイント

目で見た場所に正確に足を置く、という経験が、階段で段差を捉える力につながります。

 

まとめ

お子さんが階段の下りを怖がるのは、感覚が世界をそのように感じさせているからです。その不安を「わがまま」と捉えず、「そう感じるんだね」と受け止めてあげることが、サポートの第一歩です。

 

無理強いはせず、まずは土台となる感覚を育てる楽しい遊びを日常に取り入れてみてください。

 

遊びの中で「自分の体をコントロールできた!」という成功体験を積み重ねることが、脳の神経回路を育て、いずれ階段への挑戦につながる大きな自信となります。

 

📖 もっと詳しく知りたい方へ

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参考文献

  • Bundy, A. C., Lane, S. J., & Murray, E. A. (2002). Sensory integration: Theory and practice (2nd ed.). F.A. Davis.

  • Schaaf, R. C., et al. (2018). An intervention for sensory difficulties in children with autism: a randomized trial. Journal of Autism and Developmental Disorders, 48(5), 1493-1505.

  • Piek, J. P., et al. (2004). The relationship between motor co‐ordination, executive functioning and attention in children with developmental coordination disorder. Child: care, health and development, 30(6), 615-624.

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