日頃の保育で子どもの発音が「聞き取りずらい」そんな経験ありませんか?毎日接している保護者や先生方は何とか理解できても、周りの子どもたちは何を言っているかわからず、それが原因でいじめにつながる可能性もあります。
発語が遅い、発音が不明瞭といった課題を抱える子どもたちの中には、身体機能面での課題が影響している場合があります。今回は理学療法士の視点から、言語発達と身体機能の密接な関係性について、わかりやすく解説します。
言語発達と身体機能の密接な関係
発語が遅い子どもや発音が不明瞭な子どもの中には、カラダの問題を抱えているケースが少なくありません。
子どもの成長を支える上で、言語発達と身体機能の関係性を理解することはとても大切です。なぜなら言語発達は単に「話す力」だけではなく、全身の運動機能や感覚機能と深く結びついているからです。
発語というのは粗大運動や微細運動などの運動面が基盤になっていると、小児の言語発達遅滞に対する支援を行う言語聴覚士の中川先生は、「健診とことばの相談」の本で述べています。
①構音と手指運動の関連性
発音(構音)の不明瞭さと手指運動の発達には関連があることがすでに研究で示されています。その中で、発音が不明瞭な子どもは指先の基礎的な能力が影響している可能性が明らかとなりました。
これは「脳のつくり」が関係していると考えられます。具体的には舌や唇の動きを司る脳の部位と、手指の動きを司る部位が近いため、一方の発達が他方に影響を与える可能性があるのです。
つまり両者には密接な神経のつながりがあると考えられるのです。
例えば、手先の器用さが未熟な子どもは、舌や唇の動きも未熟である場合があり、これが発音の不明瞭さにつながることがあります。このため手指を使った遊びや活動を通じて、間接的に発音を改善するアプローチが有効です。
②言語発達と全身運動の関係
言語発達と指先の関係をお伝えしましたが、言語はそれだけでなく、全身の運動発達とも密接に関連しています。
手先の操作は微細運動や巧緻運動と呼ばれています。言葉を話すための舌や唇、喉、顎を動かす運動も微細運動に含まれて、細かな動きが必要になります。
細かな運動を行うためには、全身の動き粗大運動がベースとなっています。
運動発達の過程を考えると理解しやすいです。例えば手先の細かな作業を行うためには、カラダが安定している必要があります。このカラダの安定は粗大運動の獲得によってもたらされます。
つまり手先の細かな作業や舌や顎をうまく動かすには、全身運動を伴う粗大運動によって姿勢の安定が保たれている必要があるのです。
自閉スペクトラム症(ASD)などの発達に特性を持った乳児を対象とした研究でも、運動機能の発達が後の言語コミュニケーション能力の獲得に影響を与える可能性があると言われていますので、手先だけでなく、運動機能も見ていく必要があるのです。
③発音と感覚機能(協調性・バランス)
カラダを上手に使って運動するには、バランス感覚や全身の協調性も必要となります。
これらの能力は言葉とも関係しています。バランス能力や姿勢の協調性が未熟な場合、発語のタイミングやリズムが取りづらくなることがあるからです。
協調性やバランス感覚のどちらもカラダに入ってきた感覚情報を脳でキャッチして、適切な反応を返すようにできています。
つまり協調性やバランス感覚を評価をする上で、感覚の発達に凸凹がないかのチェックも必要ということになります。
例えば以下のような感覚の問題があると、発語に影響を及ぼします。
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触覚と口腔感覚
口の中の感覚が鈍い子どもは、舌や唇の動きを適切に調整することが難しく、発音が不明瞭になります。
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前庭感覚と姿勢の安定
前庭感覚が未熟な場合、姿勢が不安定になり、発声や発語に必要な筋肉の動きが制限されてしまいます。
感覚とカラダについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
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言語発達を促す関わり
言語発達に課題がある子どもに対して、身体機能面からアプローチすることで、間接的に言語発達を促進することが可能です。ここからは言語発達を促す関わり方について、具体的にご紹介します。
リズム遊び
リズミカルな運動は、言語発達を促進する効果があるとされています。江尻は言葉を発する前段階として必須の「喃語(なんご)」はリズミカルな運動のとの関係があると述べています。
そのため、例えば音楽に合わせて体を動かす活動や、手遊び歌を取り入れることで、発語に必要なリズム感やタイミングを養うことができます。
具体例
- 音楽に合わせてジャンプや手拍子をする
- 手遊び歌を使って指先を動かす
- リズミカルな発声と体の動きを組み合わせた遊び
口腔運動機能の強化
発語に必要な舌や唇、口の筋肉を鍛えることで、発音の改善を目指します。これには言語聴覚士(ST)と連携しながら、以下のような活動を取り入れることが効果的です。
具体例
- ストローを使った飲み物の吸い上げ
- ぶくぶくうがい
- シャボン玉
- 舌を動かすゲーム(舌を左右に動かす、舌で歯をなぞるなど)
また口の周りの筋肉を動かし、口腔機能を向上させる「あいうべ体操」や、よく噛んで食べることを促すこと、歌を歌うことも口周りの筋肉の動きを促すので協調性も高まります。
感覚遊び
言葉のベースとなる粗大運動は、前庭感覚や固有感覚という感覚を使いながらバランスを取ったり、協調的にカラダを促しています。
そのため前庭感覚を刺激するためのブランコや回転遊具を使った遊びを通じて、バランス感覚を養い、身体の動きとともに言葉を使うことを促します。また全身を大きく使うような遊具遊び、鬼ごっこなども良いでしょう。
また、さまざまな質感の素材を使った遊びや、音や色を使った活動を通じて、子どもたちの感覚を刺激します。例えば異なる素材のボールを使って遊ぶことで、触覚を刺激し、言葉でその感覚を表現する機会をつくるのもよいでしょう。
具体例
- ブランコや回転遊具を使った前庭感覚の刺激
- さまざまな質感の素材を触る遊び
- 重い物を押したり引いたりする活動で固有受容覚を刺激
読み聞かせ
絵本の読み聞かせは語彙力を高める効果的な方法です。特に対話をするように読み聞かせ(子どもに質問しながら読む)を行うことで、より効果的に言語発達を促すことができます。
Hargrave & Senechal (2000)の研究では、通常の読み聞かせと比較して、「いつ」「どこ」「だれ」「なに」「どっち」などの疑問詞を使った質問を含む読み聞かせの方が、子どもの表出・語彙の増加に効果的であることが示されました。
読み聞かせを行う際は、疑問を投げかける会話をともなった方法を取り入れるようにすると良いでしょう。
言語発達とカラダの発達は個人差が大きいため、一人ひとりの子どもの特性に合わせたアプローチが重要です。関わる際は以下の点に注意しながら支援を行いましょう。
- 子どもの興味や関心に基づいた活動を選ぶ
- 発達段階に応じた適切な難易度を設定する
- 専門職(理学療法士、言語聴覚士、作業療法士など)と連携する
まとめ
言語発達とカラダの機能は密接に関連しており、特に構音と手指運動、全身運動、感覚の間には相互作用があります。
発音がわかりづらい場合の原因には、先天的・後天的に音を出す器官に異常があったり、筋肉や神経の病変も関係してきますが、それらに異常がない場合は、今回お伝えした能力に問題がないか見てあげましょう。
保護者や保育士の方々も、日常の関わりの中でリズム運動や口腔運動を取り入れることで、子どもの言語発達をサポートできます。専門職と連携しながら、子ども一人ひとりに合った支援を提供していきましょう。
参考文献
中川信子:健診とことばの相談: 1歳6か月児健診と3歳児健診を中心に
池田泰子ら:幼児の構音不明瞭と手指運動の発達との関連について―言語聴覚士と作業療法士の視点で検証―.Human Developmental Research 2012.Vol.26,1-14
宇佐川浩:感覚と運動の高次化からみた子どもの理解.学苑社(2007)
江尻桂子 : 乳児における基準喃語の出現とリズミカルな運動の発達関連 , 発達心理学研究 , 9(3), 232-241, (1998)
Luria, A.R.: The role of speech in the regulation of normal and
abnormal behavior,Tizard, J.(Ed), 50-96, Liver-right, (1961).