「何度教えても、靴紐を結べるようにならない」
「途中まではできるのに、輪を作るところで手が止まる」
「左右の紐が混ざって、子どもがイライラしてしまう」
そんな様子を見ると、「練習が足りないのかな」「もっと繰り返したほうがいいのかな」と迷う方も多いと思います。
でも、靴紐結びは指先だけで行う単純な動作ではありません。
左右の手に別々の役割を持たせ、紐の位置を目で追い、手順を覚えながら、ちょうどよい力で引く必要があります。
大人は何気なく行っていますが、子どもにとっては複数の動作を同時に進める難しい課題です。
この記事では、靴紐が結びにくい背景と、家庭や療育現場で取り入れやすい5段階の練習法を、理学療法士の視点から解説します。
靴紐結びが難しいのは「練習不足」だけではありません
靴紐を結ぶ場面を、ゆっくり分解してみます。
- 右手と左手で紐を持ち、交差させ、片方をすき間へ通します。
- 次に2つの輪を作り、交差させ、片方の輪を通して左右へ引きます。
片方の手を動かしている間も、もう片方の手は紐を離さず、決めた位置に保たなければなりません。
そのため、一つの力が弱いから結べないというより、いくつかの動作をつなげるところで難しさが出る場合があります。
靴紐を結ぶために必要な「5つの力」
①左右の手を協力させる力
片方の手で輪を持ち、もう片方で紐を回します。このように左右の手へ違う役割を持たせる力を「両側協調」といいます。
②指先でつまみ続ける力
親指と人差し指で紐をつまみ、輪がほどけないように持ち続けます。
③見た位置へ手を動かす力
紐が交差した場所やすき間を目で探し、そこへ指を動かします。この力は、ボタン留め、箸、ハサミなどにも使われます。
④動作を順番どおりに進める力
「交差する、通す、輪を作る、引く」という手順を覚えて進めます。一度に多くの言葉を伝えると、分からなくなる子もいます。
⑤紐を引く力を調整する感覚
強く引きすぎると輪が小さくなり、弱すぎるとほどけます。「どれくらい力を入れているか」という感覚も必要です。
姿勢と道具を変えるだけでも練習しやすくなります
履いた状態では前かがみになり、手元も見えにくくなります。最初は靴を机や膝の上に置いて練習しましょう。
机で行う場合は、次の点を整えます。
環境調整
- 足の裏が床や足台につく椅子を使う
- 靴の下に滑り止めマットを敷く
- 左右で色の違う、太めで少し硬い紐を使う
- 紐の「持つ場所」に小さな印を付ける
- 大人と子どもが同じ方向から靴を見る
体幹や手先の力が育つまで待つ必要はありません。操作しやすい姿勢と道具へ変えながら、実際の動作を練習します。
靴紐は「最後のひと引き」から練習してみる
毎回、最初から最後まで全部やらせると、難しい場面が何度も続きます。
そこで使いやすいのが「後方連鎖」という方法です。
大人が途中まで行い、子どもは最後の一動作だけを担当します。できるようになったら、子どもが行う範囲を一段ずつ前へ広げます。
完成する瞬間を最初に経験できるため、「自分でできた」という感覚を残しやすい方法です。
第1段階:最後に2つの輪を引く
大人が結び目をほぼ完成させ、子どもは左右の輪を横へ引きます。声かけは「輪を持つ」「横へ引く」と短くします。
第2段階:輪をすき間から引き出す
大人が輪を途中まで通し、子どもが最後まで引き出してから左右へ引きます。
第3段階:2つの輪を交差させる
子どもが左右の輪を交差させます。色違いなら、「赤を上」のように見て分かる言葉を使えます。
第4段階:2つの輪を作る
左右の紐を折り、輪を作ります。輪が消える場合は、大人と子どもで一つずつ持ってもかまいません。
第5段階:最初の結び目から行う
2本を交差させ、片方を下へ通して引きます。ここまでつながったら、最初から最後まで練習します。
家庭では「1日5分・3回」で終わらせる
長く続けるほど上達するとは限りません。失敗が続く前に終わり、また取り組める形を作ります。
家庭では、次の進め方がおすすめです。
- 大人が一度だけ、ゆっくり見せる
- その日に子どもが担当する一段を決める
- 3回ほど行ったら終了する
- できた動きを具体的に伝える
「輪を離さず持てたね」「すき間を見つけられたね」と、できた動作を具体的に伝えます。
動画を使う場合は、異なる結び方を次々に見せず、一つの方法に統一してください。
手先を使う遊びも結ぶ練習の助けになる
直接の練習と合わせて、遊びの中で指や両手を使う経験も取り入れられます。
あそび
- 紐通しやビーズ通し
- 粘土をつまむ、丸める、細く伸ばす
- 洗濯ばさみを箱の縁にはさむ
- 両手で新聞紙を細く破る
- タオルを結ぶ、ほどく
ただし、これらの遊びだけで靴紐結びが自動的にできるとは限りません。
遊びを楽しみながら、実際の靴紐も、できる一段から短く練習することがポイントです。
手先の不器用さについては、After Rehaのこちらの記事でも詳しく解説しています。
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伸びる靴紐やロック式を使ってもOK
靴を自分で履き、時間どおりに外出できることも大切な自立です。
練習中は、伸縮性のある靴紐、結ばず固定できるロック式の留め具、面ファスナーの靴などを使ってもかまいません。
外出では使いやすい道具を選び、落ち着いた時間に通常の靴紐へ取り組む方法もあります。
専門家へ相談する目安
靴紐が結べないことだけで、診断が決まるわけではありません。
ただし、次の困りごとが重なる場合は専門家へ相談すると、つまずきを整理しやすくなります。
- ボタン、ファスナー、箸、ハサミなども難しい
- 両手を使う製作で、いつも同じところで止まる
- 手元を見ると姿勢が大きく崩れる
- 力を入れすぎる、または紐を持ち続けられない
- 練習への苦手意識が強く、靴を見るだけで嫌がる
- 日常生活や学校生活で本人が困っている
「できるか、できないか」だけでなく、どの動作で手が止まるのかを見ることが大切です。
靴紐結びについてのよくある質問
Q1.何歳までに結べればよいですか?
時期には個人差があります。
年齢だけでなく、本人が使う必要性、両手で輪を作れるか、手順を理解できるかを見て始めます。
Q2.「バニーイヤー」と「ワンループ」はどちらがよいですか?
どちらが必ず簡単とは言い切れません。バニーイヤー法は形が見えやすい一方、2つの輪を保つ必要があります。
本人が理解しやすい方法を一つ選び、大人の教え方や動画も統一します。
できないときも毎日練習したほうがよいですか?
嫌がる状態で毎日続ける必要はありません。
疲れている時間は避け、成功して終われる頻度を探します。難しい日が続く場合は段階を一つ戻します。
まとめ
靴紐結びには、次のような力が必要です。
- 左右の手を別々に動かす
- 指先で紐をつまみ続ける
- 紐の位置を目で追う
- 手順を順番どおりに進める
- 引く力を調整する
うまくいかないときは、練習量を増やす前に、姿勢、紐の太さ、色、声かけ、動作の分け方を見直します。
まずは大人が結び目をほぼ完成させ、子どもは最後に2つの輪を引くところから始めてください。
「最後までできた」という経験が、次の一段へ進む準備になります。
お子さまの「どこで手が止まるのか」を一緒に見つけます
After Rehaでは、宮崎県内の児童発達支援事業所・放課後等デイサービスなどを対象に、理学療法士による訪問運動療育支援を行っています。またnoteやInstagramでの発信も行なっています。
靴紐や衣服の紐が結べない、両手を使う製作が苦手、手先の課題になると姿勢が崩れるといった様子を、普段の生活や遊びの中から確認します。
そのうえで、お子さまの発達段階や個性に合わせ、姿勢、道具、動作の分け方、遊びを組み合わせたオーダーメイドの支援をご提案します。
「相談するほどなのか分からない」という段階でも構いません。お気軽にご相談ください!
参考文献
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Combined action observation and motor imagery improves learning of activities of daily living in children with developmental coordination disorder.PLOS ONE, 18(5) - Derbyshire Healthcare NHS Foundation Trust.Occupational Therapy advice on learning to tie shoe laces.Children’s Occupational Therapy and Physiotherapy, Advice for Everyday Activities.
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