痙縮は、脳卒中や脊髄損傷などの病気によって引き起こされる症状の1つになります。
手足を意識的に動かすためには、脳から脊髄へ命令を送る部分(上位運動ニューロン)と、脊髄から筋肉へに達する部分(下位運動ニューロン)の2つに分けられています。
痙縮は上位運動ニューロンの障害によって出現し、手足のツッパリが出現するようになります。
痙縮についてのはこちらの記事もご覧ください。
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脳卒中後の緊張した手足は改善するの?日常生活に制限を来たす痙縮への対応
脳卒中後のリハビリにおいて、機能回復に制限を来たす要因に「痙縮」が挙げられます。 脳卒中発症後に手足が麻痺で動きにくく、思うように動けなくなるなど、痙縮による運動障害は日常生活に大きな影 ...
脳卒中のリハビリ場面においても、痙縮は機能改善の制限となる一因でもあります。
今回は、脳卒中後の痙縮に対して行うリハビリについて解説していきます。
痙縮が日常生活に及ぼす影響
痙縮によって日常生活に支障をきたしている方は少なくありません。
脳卒中後の運動麻痺を患っている方のうち、3人中2人は痙縮が後遺症として残っており、今なお苦しまれております。
生活状況
平成30年版厚生労働白書によると、18歳~65歳まで脳卒中患者のうち、3か月後に自宅で生活されている方は64%となっています。しかし、脳卒中発症後の生活自立を評価するために用いるmodified Rankin Scale(mRS)では、31%の方が中等度以上の障害により介助を要するとされています。
† 歩行は主に平地での歩行について判定する。なお、歩行のための補助具(杖、歩行器)の使用は介助には含めない。
比較的若い方々の脳卒中発症後の生活状況ですので、65歳以降の方はこれ以上に生活に支障を期待していることが考えられます。
痙縮に対するリハビリは日常生活の制限によってQOL(生活の質)が低下している方にとって、非常に重要な意味をもつと考えます。
痙縮に対する治療
痙縮に対する治療は、「脳卒中治療ガイドライン2015」に記載しているものが現在推奨されている治療法になります。
脳卒中治療ガイドライン2015
1.抗痙縮薬
片麻痺(半身の麻痺)の痙縮に対して、抗痙縮薬(痙縮を抑制する)と言われる薬の処方を考慮することが勧められる(グレードA)。重篤な痙縮に対しては、バクロフェンの髄注が勧められる(グレードB)
2.ボトックス
痙縮により手足の関節の動きが制限されている場合は、神経から放出される伝達物質をブロックするボツリヌス療法(保険適応外)(グレードA)が勧められる。また神経破壊薬による神経ブロックも勧められる(グレードB)
3.電気刺激
痙縮に対し、高頻度のTENS(transcutaneous electrical nerve stimulation:経皮的電気刺激*¹)を行うことが勧められる(グレードB)
4.ストレッチ
慢性期(病状が安定している回復期以降の時期)の片麻痺患者の痙縮に対するストレッチ、関節を動かす運動が勧められる(グレードB)
5.装具
運動麻痺のある手(上肢)の痙縮には、痙縮のある筋肉を伸ばしたまま保持する装具の装着、またはFES(functional electrical stimulation:機能的電気刺激*²)付装具を考慮しても良い(グレードC1)。
6.温熱
痙縮のある筋肉を冷却したり温めたりすることを行っても良いが、十分な科学的根拠はない(グレードC1)
*1機能的電気刺激とは、筋肉や末梢神経を刺激することで運動麻痺のある筋肉を収縮させて、筋機能の改善を図るものです。
*2経皮的電気刺激とは、痛みを感じない程度の電流を流し、痛みや筋肉の緊張を和らげる低周波治療の1種になります。
痙縮に対する各種治療には幅広い選択肢があり、これらを組み合わせて用いることで効果が高まるとされています。
なお、欧米医療先進諸国では,ボツリヌス治療を脳卒中後のリハビリの補完的な治療と位置づけて、すでに一般化されているそうです。
痙縮に対してリハビリができること
痙縮に対するリハビリは、明らかな副作用がないため、痙縮や麻痺の程度にかかわらず実施されます。
脳卒中発症後の急性期からリハビリは開始され、回復期になるとリハビリの時間も増加するのが一般的です。
しかし痙縮は、脳卒中発症後3カ月以降で約42%の方に後遺症として残存すると言われており、特に運動量が増えてくる回復期以降で発生することが多い傾向にあります。
(出典)君浦 隆ノ介:脳卒中後上肢痙縮に対するボツリヌス治療を併用した理学療法の効果と経過 理学療法ジャーナル 53巻7号 (2019年7月)pp.681-688
もちろん、発症後48時間で10%、10日間で17%の方にも痙縮はみられますが、ほとんどは回復期以降になって著明に見られるようになります。
回復期は先にも述べたように、リハビリを積極的に行っている時期ですが、活動量の増加によって痙縮が強まってしまう可能性も考えると、適切なリハビリを行っていく必要があります。
痙縮(上位運動ニューロン障害)に対するリハビリ内容について見ていきましょう。
上位運動ニューロン障害に対するリハビリ
関節可動域訓練(関節を動かす練習)
痙縮がある手足に対して、関節を動かすことは「拘縮」と呼ばれる関節が硬くなる状態を予防する意味でも重要となります。
ストレッチ(持続身長)や他動的に関節を動かしてもらう訓練が中心で、反復して練習することで痙縮の改善が得られる言われています。
ある程度ご自身で動かすことができる場合は、積極的に動かすことで「相反抑制(そうはんよくせい)」と言われる働きにより、痙縮を改善させると考えらています。
1人ストレッチのポイント
痙縮によって筋肉が硬くなり、関節が曲がってしまっている場合には、関節を反対方向にゆっくりと動かしてあげましょう。
ポイントとしてはゆっくりと動かしてあげることが大切です。速く動かしてしまうと、さらに筋肉が緊張してしまうため、ゆっくりと伸ばしてあげましょう。
筋力増強訓練(筋トレ)
脳卒中に対する筋力増強の運動、いわゆる筋トレは痙縮を悪化させることなく、筋力と日常生活動作を改善させると報告されています。
(出典):Merlin T, et al: Extending an evidence hierarchy to include topics other than treatment: revising the Australian'levels of evidence'.BMC medical research methodology.2009;9(1):34.
これは発症からの期間に関係なく言えることから、発症した直後から筋トレを行うことが勧められています。
痙縮のある筋肉には神経からの影響を受けている要素以外にも、非神経原性因子と言われる神経の要素以外含まれています。
非神経原性の因子には、筋肉や皮膚などの組織の構造が変化してしまうことや、痙縮により代償して行う動作によって、正常な関節や筋肉にも負担がかかり炎症が起こるなど2次的な要素も絡んでいます。
筋トレによって、この非神経原性の要因を軽減させることで、日常生活が楽に行えるようになります。
痙縮筋に対する筋力増強についてはこちらの記事もご覧ください。
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物理療法
物理療法には痙縮がある筋肉に対して、物理的に刺激を与えることで緊張を緩ませる方法などがあります。
最も一般的なものが、痙縮筋を温める方法です。
(温熱・寒冷・電気等による疼痛の緩和、麻痺筋に対する刺激)
装具療法
手の痙縮に対して装具を用いる目的としては、2つあります。
1つは、筋肉を持続的に伸長することによって、筋の緊張を抑えて関節の変形や関節が拘縮するのを改善する目的があります。
筋肉の線維が短縮してしまっている場合は、30分以上持続的に伸ばす必要があると言われ、リハビリの時間だけでは足らず、装具が適用されることがあります。
(出典):中野治郎,近藤康隆,沖田実,:沖田実(編):筋長や筋 節長の変化に対するストレッチングの効果,関節可動 域制限第 2 版,187-190,三輪書店,(2013).
2つ目に、手が持つ本来の機能を代償するといった使用方法があります。
麻痺のある手は、肘や手首が曲がり、指も握りこむ方向に緊張するため、動きも制限されてしまいます。動きを補助する装具を利用することで、麻痺のある手の使用頻度を増やし、反復して手を動かすことで機能改善を図るといった目的があります。
脳卒中後の足の麻痺には、短下肢装具・長下肢装具と言われる装具が利用されることがあります。
痙縮により足が「内反尖足」と言われるつま先が下がり、内側を向く現象が起こりますが、この状態では体重をうまくかけることができないため、装具を用いることがあります。
装具の固定力により体重をしっかりと支えられようになるため、正常な足の位置で立ったり、歩いたりすることで痙縮の抑制にも繋がります。
装具については、より良い運動を覚えてもらうために必要不可欠なツールと言えます。
ポジショニング
ポジショニングとは、「自力で移動のできない方、自力で動かすことができない方」を対象に、「カラダの位置もしくは姿勢を変える技術」や「より良い姿勢に整えること、日常生活を送るための適切な姿勢に整えること」と定義されています。
ポジショニングは、関節の拘縮や筋力低下を予防するなど、脳卒中後の2次的な障害を予防とすることが目的です。
リハビリの視点からみるとポジショニングは、運動が行いやすく、適切な感覚がカラダに入力されるようにするために、緊張している筋肉や過剰に働いている筋肉を休ませるための姿勢と言えるでしょう。
端的に言えば、「リハビリを効果的に進めるために、適切な姿勢にする」ことです。
車いすを例にポジショニングを考えてみましょう。
脳卒中後は、車いすに座っていても、カラダを真っすぐに保持することが難しくなっています。
麻痺側に倒れることが多く、多くの場合それを防ごうと過剰に、麻痺のない側に体重が移動します。また体幹の力をうまく発揮できないため、背中が丸くなり車いすからずり落ちてしまいそうになる事もあります。
こういった姿勢に適切に対処するために、背もたれ用のサポーターや、適切な硬さのクッションなどを選定しポジショニングすることで、姿勢を真っすぐに保つことができ、過剰な緊張を抑えることができます。
日常生活動作訓練
痙縮は運動機能だけでなく、日常生活や生活の質(quality of life:QOL)にまで影響を及ぼし、リハビリの進行を阻害します。
痙縮のある手をどうのように日常生活で使用するのか、痙縮により支えが弱くなった足を使って、ふろ場をどのように移動するかなど、実際の日常生活の場面を想定したリハビリを行います。
麻痺や痙縮が軽度の場合は、麻痺手を積極的に利用した動作を練習しますが、中等度以上の麻痺が利き手側に出現した場合、「利き手交換」と言って、非利き手として使用した日常生活動作の練習を行うことがあります。
CI療法では、麻痺のない側の手を使用できないように、三角筋などで制限することで、麻痺手を強制的に使用して日常生活動作の練習を行うといった方法もあります。
テクニック・コンセプト
リハビリにおけるテクニックや、リハビリを行うための「概念」「コンセプト」はいくつもあります。
脳卒中後のリハビリで有名なものに、ボバース、PNF、CI療法、促通反復療法があり、それぞれ違ったコンセプトを持っています。
担当するスタッフが、どういったコンセプトを元にリハビリを提供するかによって、リハビリ内容も異なる場合があります。しかし目標としているところは同じなので、リハビリの進捗状況はコンセプトよりも、セラピストの技術によるところが大きいと思われます。
当サロンでは、イギリス発祥の「ボバース」、アメリカ発症の「PNF」のコンセプトをベースに、徒手療法・FBL Klein-Vogelbach(機能的運動療法)を織り交ぜながらリハビリを提供しています。
おわりに
痙縮におけるリハビリや治療は、日々進歩しています。
今回ご紹介した、脳卒中治療ガイドラインの内容に加えて、リハビリテーションによるアプローチを加えることで、痙縮に対してもより高い効果が期待できます。
痙縮専門の外来がある医療機関もあるので、あきらめずにまずは相談することをオススメします。
病院を退院されてもなお、リハビリを続けたいとお考えの方は、こちらの記事もご覧ください。
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参考文献
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・泉從道 ら:脳血管障害片麻痺患者の患側上肢の筋緊張亢進に対する高温浴 と赤外線照射の効果 表面筋電図による解析.日温気候物理医会誌 1997;60:209-220
・下堂薗 恵:促通反復療法の治療成績と効果的な併用療法の開発 臨床神経 2013;53:1267-1269
・君浦 隆ノ介:脳卒中後上肢痙縮に対するボツリヌス治療を併用した理学療法の効果と経過 理学療法ジャーナル 53巻7号 (2019年7月)pp.681-688
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