カード遊びは、幼児の発達を支える遊びとして注目されています。
ただし、その理由は「カードを見ること」そのものではありません。結論から言うと、カード遊びのよさは、ルールを覚え、順番を待ち、状況に合わせて行動を切り替える経験を、遊びの中で何度も繰り返せることにあります。
この記事では、カード遊びで子どもがどんな力を使っているのか、研究で何がわかっているのか、そして家庭で効果を引き出すためのポイントを、専門的な視点から解説します。
カード遊びで使われる「実行機能」とは
カード遊びとの関係でよく取り上げられるのが、「実行機能」と呼ばれる力です。
実行機能とは、目的に合わせて自分の行動や考えをコントロールする力のことで、大きく次の3つに分けられます。
① 抑える力(抑制)
やりたいことや、つい出てしまう行動をいったん止める力です。「自分の番まで待つ」「出してはいけないカードを出さない」といった場面で使われます。
② 覚えておく力(ワーキングメモリ)
必要な情報を頭の中に置いたまま使う力です。「今のルールは何か」「さっきのカードはどこにあったか」を覚えておくときに働きます。
③ 切り替える力(柔軟性)
状況の変化に合わせて、考え方ややり方を変える力です。「今度は赤ではなく青で取る」とルールが変わったときに必要になります。
実行機能は注意や学習、友だちとの関わりなど、生活のさまざまな場面の土台になる力で、特に幼児期は、この力が大きく伸びる時期だと考えられています。
カード遊びが幼児の発達に役立つ理由は「ルール」にある
同じカードを使っても、図鑑のように眺めるだけの遊びと、ルールのあるゲームとでは、子どもが使う力が大きく異なります。
たとえば「赤が出たら取る」というゲームでは、赤以外のカードに手が出そうになるのを抑える必要があります。途中で「今度は青なら取る」に変えると、前のルールを手放して切り替える力が求められます。
さらに「赤は取る、青は取らない。ただし星の絵なら逆」となれば、覚える・抑える・切り替えるの3つを同時に使うことになります。
つまり、カード遊びの価値を決めるのはカードそのものではなく、どんなルールで遊ぶかです。簡単すぎず、少し考えないと成功しない遊びほど、これらの力を使いやすいと考えられます。
研究でわかっていること
カードゲームで「我慢」と「切り替え」が伸びた
中国で4〜5歳の子どもを対象に行われた研究では、子どもたちを「家庭で親とカードゲームをする群」「園で友だちとカードゲームをする群」「親と図鑑カードを眺める群」に分け、5週間の取り組みを行いました(Gu et al., 2024)。
その結果、カードゲームをした2つの群では、抑える力と切り替える力に改善が見られるだけでなく、抑える力の効果は、取り組みが終わったあとも続いていました。
家庭でも園でも効果が確認されたことから、特別な機器を使わずに取り入れやすい方法として期待されています。
数字のカードで「数の力」が伸びた
カードに何を載せるかによっても、育つ力は変わります。
米国の研究では、未就学児76名を「数字の大小を比べるゲーム」「数字を覚えて合わせるゲーム」「色と形を合わせるゲーム」に分け、1回15分のゲームを4回行いました(Scalise et al., 2020)。
数字を使った2つの群では、数字を読み取る力が向上しました。さらに大小を比べるゲームの群では、数字が表す量の大きさを判断する力も伸び、その効果は8週間後も続いていました。
短い時間でも、数字を見て、量をイメージし、比べて判断する経験を繰り返せることが、カード遊びの強みといえます。
ただ、この研究は経済的に厳しい家庭の子どもが対象であり、すべての子に同じ結果が出るとは限らないことは理解しておくべきでしょう。
相手がいるからこそ育つ「気持ちの調整」
カード遊びには、ひとりで行うドリルやデジタル教材にはない特徴があります。それは、相手とのやり取りの中で、気持ちを調整する場面が自然に生まれることです。
自分の番まで待つ、欲しいカードを先に取られる、負けて悔しい思いをする。
こうした場面で気持ちを立て直しながら遊びを続けることは、感情をともなう自己コントロールの練習になると考えられています。
勝ち負けが苦手な子の場合は、大人と協力して全部のカードを集めるルールにするなど、段階をつけるとよいでしょう。
知っておきたい注意点
カード遊びの効果を過大に考えないことも大切です。
2026年に発表されたボードゲームと実行機能に関する研究のまとめ(24研究を検討、16研究を統合分析)では、幼児の「見たものの位置や形を短く覚えておく力」に効果が見られた一方、研究によって結果に大きな差がありました(Estrada-Plana et al., 2026)。
著者らも、ボードゲームを強くすすめられるほどの証拠はまだそろっていないと結論づけています。
また神経衰弱で位置を覚える練習をしても、記憶力全般が大きく伸びるとまでは確かめられていません。
「カード遊びで前頭葉が発達する」という説明も、脳の検査で直接確かめられたものではありません。正しくは、カード遊びでは注意・記憶・行動のコントロールを繰り返し使う機会があると理解するのが適切です。
効果を引き出す3つのポイント
① 難しさを「少し頑張ればできる」に調整する
簡単すぎても難しすぎても、力は使われにくくなります。神経衰弱なら、3歳は3〜4ペア、4歳は5〜8ペア、5〜6歳は8〜12ペアをひとつの目安にし、子どもの様子に合わせて増減してください。
② ルールを段階的に変える
「色を合わせる」から始め、「色または形を合わせる」「途中でルールを変える」「特別なカードを入れる」と少しずつ複雑にすると、無理なく切り替える力を使えます。
③ 大人がひと声かける
「さっきどこにあったかな?」「今のルールは何だった?」といった声かけは、思い出す力やルールを意識する力を助けます。家庭で親と遊んだ群でも効果が見られたことから、大人が一緒に遊ぶ意味は大きいといえます。
まとめ
カード遊びは、それだけで頭がよくなる「脳トレ」ではありません。
ですが、覚える・待つ・我慢する・切り替える・相手を見るといった、幼児期に大切な力を楽しみながら繰り返し使える遊びです。
体を動かす遊びやおしゃべり、ごっこ遊びなどと組み合わせながら、日々の遊びのひとつとして取り入れてみてください。
出典
- Gu, T., Gai, X., & Wang, Y. (2024). Executive function training in family card games. Journal of Applied Developmental Psychology, 93, 101660. https://doi.org/10.1016/j.appdev.2024.101660
- Scalise, N. R., Daubert, E. N., & Ramani, G. B. (2020). Benefits of playing numerical card games on Head Start children's mathematical skills. The Journal of Experimental Education, 88(2), 200–220. https://doi.org/10.1080/00220973.2019.1581721
- Estrada-Plana, et al. (2026). Can executive functions be improved by playing board games across the lifespan? A systematic review and meta-analysis. Applied Psychology: Health and Well-Being, 18(4), e70194. https://doi.org/10.1111/aphw.70194
※本記事は研究知見をもとにした一般的な情報であり、診断や治療効果を示すものではありません。お子さんの発達で気になることがある場合は、かかりつけ医や専門機関にご相談ください。
After Rehaより
After Rehaは、宮崎県で訪問による運動療育を行っています。ご家庭や園での遊び方について、お気軽にご相談ください。
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